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小胞体ストレス誘導性アポトーシスはC/EBP homologous proteinを介して関節軟骨変性に寄与する

Endoplasmic reticulum stress-induced apoptosis contributes to articular cartilage degeneration via C/EBP homologous protein
著者:Uehara Y, Hirose J, Yamabe S, Okamoto N, Okada T, Oyadomari S, Mizuta H.
雑誌:Osteoarthritis and Cartilage 22 (2014) 1007-1017
  • 軟骨変性
  • 小胞体ストレス
  • CHOP

上原 悠輔

論文サマリー

 軟骨細胞は軟骨の細胞外基質の産生と基質分解酵素の発現を調節し、軟骨の恒常性を維持する。軟骨細胞がアポトーシスに陥り恒常性が喪失すると、変形性関節症 (OA) へ進行する。ヒトや実験動物において、アポトーシスの増加とともに軟骨変性が進行することから、軟骨細胞アポトーシスはOAの病態進行において重要な現象であると考えられている。細胞がアポトーシスに至る過程には少なくとも3つの経路が存在するが、その一つに小胞体ストレスを介した経路がある。

 小胞体ストレスは小胞体内に構造異常蛋白が蓄積する状態であり、小胞体ストレス下の細胞は、小胞体ストレス応答(UPR)と呼ばれる細胞内調節機構により自身の恒常性を維持する。異常蛋白が過剰に蓄積すると、小胞体ストレスとUPRのバランスが崩れ、C/EBP homologous protein (CHOP) を介した小胞体ストレス誘導性アポトーシスが惹起される。ヒトOA軟骨において軟骨変性の進行とともに軟骨細胞アポトーシスとCHOPの発現が増加することは報告されていたが、軟骨変性におけるCHOPの直接的な役割は不明であった。本研究では、Chop遺伝子欠損(Chop-/-マウスのOAモデルと初代培養軟骨細胞を用いて、CHOPの役割について検討を行った。

 マウスOAモデルにおいて、野生型マウスでは軟骨変性の進行とともにChopの発現が増加し、小胞体ストレスマーカーGrp78 とXbp1sの発現が増加した。また、変性に伴って、アポトーシスの誘導を示す断片化DNAと活性型caspase-3は増加し、matrix metalloproteinase-13(Mmp13)の増加とII型コラーゲン(Col2)の低下を認めた。 (Chop-/- マウスでは、野生型マウスと比較してGrp78とXbp1sの発現に差はなかったが、軟骨変性の進行が抑制され、アポトーシスとMmp13の増加とCol2の低下が抑制された。細胞培養系では、野生型マウスの軟骨細胞に小胞体ストレス誘導剤を投与すると、Chop、Grp78およびXbp1sの発現とアポトーシスが増加し、Mmp13の増加とCol2とアグリカン(Acan)の低下を認めた。(Chop-/- マウスの軟骨細胞では、野生型と比較してGrp78とXbp1sの発現増加に差はなかったが、アポトーシスとMmp13の増加およびCol2とAcanの低下が抑制された。

 以上より、CHOPを介した小胞体ストレス誘導性アポトーシスが軟骨変性の進行に寄与し、CHOPがOAの病態に重要な役割を担っていることが明らかとなった。

上原 悠輔

著者コメント

 私は大学院への入学当初より、当教室の水田博志先生、廣瀬隼先生のご指導のもと、軟骨細胞における小胞体ストレス応答の研究に従事するようになりました。たくさんの研究手技や学術的な知識をご教授いただいた先生方や教室内外の仲間たちに支えられ、今回の研究成果を得ることができました。小胞体ストレスは、森和俊先生のラスカー賞受賞に注目されるように、糖尿病や神経変性疾患をはじめ様々な病態においてその重要性が認識されています。現在、小胞体ストレスの概念は広がりを見せ、整形外科領域においても多くの解析がなされおり、小胞体ストレス応答に関連した報告が増えつつあります。いまだ不明な点が多く存在しますが、今後も真摯に研究を継続していきたいと思います。(熊本大学大学院生命科学研究部整形外科学分野・上原 悠輔)