日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 北澤 荘平

糖尿病骨減少にはsFRP-4遺伝子再活性化によるβ−カテニンシグナル低下が関与する

Diabetic Osteopenia by Decreased β-Catenin Signaling Is Partly Induced by Epigenetic Derepression of sFRP-4 Gene.
著者:Mori K, Kitazawa R, Kondo T, Mori M, Hamada Y, Nishida M, Minami Y, Haraguchi R, Takahashi Y, Kitazawa S.
雑誌:PLoS One. 2014 Jul 18;9(7):e102797.
  • 糖尿病
  • 酸化的ストレス
  • メチル化シトシン

北澤 荘平

論文サマリー

糖尿病は、血液中のグルコース濃度が高いために、全身様々な臓器に合併症が発生する。この合併症の多くは、メイラード反応により非酵素的に生成されるグルコースの糖化反応物によることが知られている。骨に対しては、この糖化反応物による酸化的ストレスと骨基質コラーゲンの「不良」架橋を生じることにより、骨の量的、質的な低下をもたらす。私どもは、骨髄ストローマ細胞ST2に酸化的ストレスを加え、その前後で変化する遺伝子をマイクロアレイによりスクリーニングを行った。酸化的ストレスにより、骨形成に促進的なβ−カテニン遺伝子のターゲット遺伝子群の発現低下を認めると同時に、β−カテニンのアンタゴニストの一つであるsFRP-4の発現亢進が認められた。私どもは、sFRP-4遺伝子が酸化的ストレスシグナルのターゲット遺伝子の一つであり、sFRP-4発現亢進の結果、β−カテニンシグナルの低下がもたらされ、糖尿病状態での骨量的減少が起こるのではないかと推測し、その詳細な分子メカニズムを追跡した。sFRP-4遺伝子はその発現調節領域にTATA-boxを有し、その転写開始部位周囲のCpGがメチル化することにより発現が抑制される。そこで、sFRP-4遺伝子のTATA-box周囲にメチル化を有する培養細胞に、試験管内で酸化的ストレスを加えたところ、メチル化状態は維持されたままで、sFRP-4遺伝子発現の再活性化が認められた。sFRP-4遺伝子のTATA-box周辺は、その3塩基上流のCpGにメチル化が生じるとメチル化シトシン結合蛋白の一つであるMeCP2蛋白の結合配列となり、このような状態ではMeCP2がsFRP-4遺伝子の転写開始付近に強固に結合し、sFRP-4遺伝子の転写を抑制していることが抑制のメカニズムであることが分かった。さらに、酸化的ストレスにより、メチル化シトシンと対をなすグアニンが8-OH-dGに変化した場合は、MeCP2との結合性が失われ、逆にTATA-box結合蛋白との親和性が回復することが分かった。エピジェネティク変化には、メチル化シトシン、クロマチン蛋白の修飾、非翻訳領域RNAなどが関与しており、発生や再生、疾患に関与している。メチル化シトシンが遺伝子発現調節領域に集積すると、その遺伝子発現は失われる。今回の研究は、メチル化シトシンの脱メチル化ではなく、メチル化したシトシンと対をなすグアニンの変化が、遺伝子の再活性化をもたらすという、酸化的ストレスによる遺伝子活性化の新たなエピジェネティク機序を解明したものである。

北澤 荘平

著者コメント

当初は、神戸大学の研究室で、糖尿病の専門家とCOE研究チームでこの研究を始めた。COE研究が終了するころ、教授不在の中、講座、研究室の改組が行われ、5年間ほど先行きの見えない不安定な環境となってしまった。その中で、研究を何とか継続し、最終的に北澤荘平が愛媛大学に移動した後、訳の分からない査読意見に悩まされながら、ようやく受理されたという思い出深い論文です。実験開始と同時に作り出していたsFRP-4遺伝子改変動物も愛媛に一緒に移動してもらいました。写真は、長いこと生活してきた古いラボから、私が神戸大特命教授となり、ラボの皆で引越をしたときの写真です。向かって左端が筆頭著者の森淸先生で、その隣が近藤武先生(現在法医学所属)、右側は私ども夫婦です。右の写真は、理化学研究所と共同開発したsFRP-4遺伝子改変マウスの骨の3D-CT像で、現在愛大の原口先生、本山さん、立花君、今井先生達と共同で解析しています。筆頭著者の森先生は現在、大阪医療センターで病理診断医として活躍しています。(愛媛大学大学院医学系研究科分子病理学講座・北澤 荘平)