日本骨代謝学会

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MAML1はRunx2の転写活性を増強し,骨発生に役割を果たす

MAML1 Enhances the Transcriptional Activity of Runx2 and Plays a Role in Bone Development
著者:Takashi Watanabe, Toshinao Oyama, Maki Asada, Daisuke Harada, Yoshiaki Ito, Masayo Inagawa, Yutaka Suzuki, Sumio Sugano, Ken-ichi Katsube, Gerard Karsenty, Toshihisa Komori, Motoo Kitagawa, Hiroshi Asahara
雑誌:PLoS Genet. 2013;9(1):e1003132
  • Runx2
  • MAML1

渡邉 隆司

論文サマリー

Runx2は未分化間葉系細胞から骨芽細胞への分化に必須の転写因子で,骨形成全般に重要な役割を果たしている。Runx2の発現量は骨の発生のごく初期の段階から後期まで大きく変化せず,各ステージにおいてそれぞれ異なる遺伝子の発現を制御することから,Runx2の機能を正または負に制御するさまざまな協調因子の存在が示唆されている。これまでにTAZ,Grg5,Rb,HDAC4など,Runx2と相互作用する因子が報告されているが,その生理的意義は不明なものが多い。
本研究ではRunx2による転写を制御する因子を,約10,000種類のFLJ cDNAクローンから探索した。その結果,これまでに報告のないいくつかの遺伝子が見出され,その中でも特に強力にRunx2による転写を増強したのがMastermind-like(MAML)ファミリーであった。
MAMLはショウジョウバエのMastermindのホモログで,Notchのco-activatorである。Notchシグナルはさまざまな生命現象,とりわけ発生期における細胞分化運命決定に大きく関わっているが,骨形成への作用に関しては,Notchのintracellar domainがRunx2と直接結合して転写を阻害し,骨芽細胞分化を抑制することが報告されている。
我々はNotchとの結合に必要なN末端側の塩基性領域を欠損した変異MAML1がRunx2の転写活性を増強すること,またNotchシグナル阻害剤が, MAML1のRunx2に対する作用に影響を与えないことを明らかにした。これらの事から,MAML1はNotch非依存的にRunx2による転写を制御する可能性が示唆された。
次にMAML1が骨芽細胞分化に与える影響を,培養細胞を用いて検討した。マウス未分化間葉系細胞株C3H10T1/2にRunx2を強制発現させると,骨芽細胞のマーカーであるアルカリホスファターゼ (ALP) の発現が誘導されるが,Runx2とMAML1を同時に強制発現させると,ALPの発現は増強された。一方MAML1のみを強制発現させてもALPの発現は誘導されなかった。この事から,MAML1はRunx2を介して骨芽細胞分化を制御することが示された。
さらにin vivoでのMAML1の骨形成への影響を調べるため,MAML1ノックアウトマウスの解析を行った。大腿骨の切片を解析したところ,primary spongiosaの狭小化が認められ,内軟骨性骨化の遅延が示唆された。
本研究で,Notchのco-activatorとして知られているMAML1が骨芽細胞分化に必須の転写因子Runx2の機能を制御し,骨芽細胞分化,骨形成に重要な役割を果たすことを明らかにした。

著者コメント

会社では骨粗鬆症治療薬プロジェクトに携わり,骨芽細胞分化に興味をもっていました。幸い浅原先生のラボに出向する機会に恵まれ,このような研究を行うことができました。二年間の出向を終えて会社に戻り,仕事をしながら追加実験,論文作成を行うのは大変でしたが,浅原先生とラボのメンバーに支えられ,やりとげることが出来ました。人との繋がりに恵まれたことに心より感謝しています。(大塚製薬・渡邉 隆司)