日本骨代謝学会

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クロマチン構造変換情報解析に基づく新規破骨細胞分化転写因子の同定

Identification of Novel Transcription Factors in Osteoclast Differentiation using Genome-wide Analysis of Open Chromatin Determined by DNase-seq.
著者:Inoue K, Imai Y.
雑誌:J Bone Miner Res. 2014 Mar 28.
  • 破骨細胞
  • エピジェネティク
  • DNase-seq

井上 和樹

論文サマリー

 骨吸収を担う破骨細胞の分化異常は、骨粗鬆症や大理石骨病などの骨疾患へと繋がる。そのため、破骨細胞分化のメカニズムを解明することは、骨疾患病態の分子メカニズムの解明に重要である。近年、細胞分化の分子メカニズムには、DNAのメチル化・ヒストン修飾やクロマチン構造変換などのエピジェネティクスが重要であることが報告されている。しかしながら、破骨細胞分化におけるエピジェネティクスは不明な点が多い。そこで、我々は、エピジェネティクス、特に、クロマチン構造変換に着目し、破骨細胞分化の分子メカニズムの解明を試みた。細胞分化を規定する遺伝子の発現は、遺伝子プロモーターのクロマチン構造が“開いた”状態になり、転写因子が結合することにより制御される。この開いたクロマチン領域は、古くから、DNase I 高感受性領域(DNase I Hypersensitive Site: DHS)と呼ばれており、DHSをゲノムワイドに検出する方法として、DNase-seqという手法が開発された。我々は、本手法を用いて、破骨細胞分化初期段階のDHSのゲノムワイドな変化を探索し、さらに、DHSに結合すると予測される転写因子群の同定を試みた。
 DNase-seqにより破骨細胞分化初期のDHSをゲノムワイドに探索した結果、破骨細胞分化主要制御遺伝子であるNfatc1プロモーターにおいて、DHSが存在することを見いだした。本研究では、他にもおよそ15,000におよぶDHSを検出しており、これらDHSの25%近くはプロモーター領域に集積していた。これらのDHS領域に結合すると予測される転写因子の結合モチーフをバイオインフォマティクス解析したところ、破骨細胞分化において既知の転写因子であるFos・Jun・Crebなどが同定された。さらに、新規の転写因子群として、Zscan10・Atf1・Nrf1・Srebf2などが同定された。これら新規転写因子群を、培養細胞株RAW264細胞およびマウス骨髄由来細胞においてノックダウンしたところ、破骨細胞分化が抑制され、新規転写因子群が破骨細胞分化を正に制御することが明らかとなった。
 本研究により、破骨細胞分化におけるゲノムワイドなクロマチン構造変換が初めて明らかとなるとともに、DNase-seqにより細胞分化を制御する転写因子の同定が可能となることが明らかとなった。

井上 和樹

著者コメント

 海外学会に参加中の今井祐記先生から「面白い発表があった」と連絡があったのが、DNase-seqについての発表で、それが本研究の始まりでした。簡単そうにみえた実験でしたが、意外とDNaseI処理の条件が難しく、日本製のDNaseIのクオリティの高さ(切れ味の良さ)に悩まされました。アメリカの研究者にメールで何度も実験手法を聞き、ボストンに押し掛けてバイオインフォマティクス解析を教えてもらいながら、今井先生と2人で試行錯誤し、なんとか破骨細胞分化の転写メカニズムの一端を解明することができました。途中でラボが移転して、ラボのセットアップなど色々ありましたが、本研究は、たくさんの先生のご指導・ご協力のおかげで論文としてまとめることができました。この場をお借りして感謝申し上げたいと思います。(愛媛大学・井上 和樹)