日本骨代謝学会

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メダカ尾ヒレ骨折修復モデルのin vivo解析:異なる2種の破骨細胞が骨芽細胞による仮骨形成の前後で誘導される

In-vivo imaging of the fracture healing in medaka revealed two types of osteoclasts before and after the callus formation by osteoblasts.
著者:Takeyama K, Chatani M, Takano Y, Kudo A.
雑誌:Dev Biol. 2014 Aug 14. pii: S0012-1606(14)00398-4.
  • 破骨細胞
  • 骨芽細胞
  • 骨折修復

武山 和弘

序論

 骨折修復は骨組織の発生・成長を再現することで損傷した骨組織を回復する過程である。そのため、骨折の研究は臨床への応用のためだけでなく、骨代謝に関わる細胞動態解析の系としても古くから用いられてきた。
 解析に用いられてきたのはマウスやラットをはじめとした哺乳動物の実験系である。ヒトと遺伝的バックグラウンドが近いという点で、哺乳動物は重要なモデル生物であり、骨代謝に関わる多くの重要な因子が発見され、骨に関わる細胞を制御する仕組みを明らかにするのに大いに貢献してきた。しかしながら、哺乳動物を用いた実験系では、細胞を生きたまま解析することが困難であった。
 そこで、本研究では薄く透明なメダカの尾ヒレを用いて、骨折修復を生きたまま解析する系を確立し、生きた破骨細胞と骨芽細胞を観察した。

武山 和弘

実験方法と結果

 尾ヒレの骨組織である鰭条は瓦上の一対の骨組織からなり、私たちは、このうち片側を、血管を含む軟組織の損傷なしに骨折させた。骨折修復過程における破骨細胞と骨芽細胞を観察するため、当研究室で作製された破骨細胞と骨芽細胞が蛍光標識された遺伝子組み換えメダカを使用した(Chatani et al. 2011, Inohaya et al. 2010)。
 まず、骨折修復過程における破骨細胞と骨芽細胞誘導を明らかにするため、共焦点顕微鏡を用いた3次元的経時観察を行った。その結果、骨芽細胞による仮骨形成の前後2段階で異なる破骨細胞が誘導されることが明らかになった。初期の破骨細胞は、骨断片の吸収を行い、後期の破骨細胞は仮骨のリモデリングを行った。これら破骨細胞の形態的な特徴を電子顕微鏡により観察したところ、後期の破骨細胞では観察された明帯が、初期の破骨細胞では観察されなかった。この結果から、初期の破骨細胞は後期に比べ、骨吸収活性が低いが移動性に富んだ細胞であると考えられた。
 続いて、これら破骨細胞と骨芽細胞の由来を検討するため、それぞれ短いインターバルで経時観察を行った。その結果、破骨細胞ははじめ血管の周囲に現れ、骨断片または仮骨周囲に移動した。一方、骨芽細胞は損傷した周囲の骨表面から、損傷部に向かって移動し分化することが示された。
 このような細胞の移動や分化には、組織の炎症が関わっていることが知られており、特に炎症応答性酵素のCOX2は骨折修復に必須であるといわれている。私たちは、メダカ骨折修復過程における、COX2の働きを調べるため、阻害剤を用いて破骨細胞と骨芽細胞誘導を観察した。その結果、COX2阻害により後期の破骨細胞誘導のみが著しく減少することが明らかになった。

著者コメント

 私たちの研究室では、これまでメダカを用いて骨代謝研究に取り組んできました。メダカは、医学の分野ではまだあまりなじみのないモデル生物ですが、発生生物学研究においては古くから用いられてきました。骨代謝研究の領域においては、椎体形成をはじめとした発生生物学研究として、破骨細胞や骨芽細胞など哺乳動物に共通する細胞やその制御因子が同定され研究されてきました。
 冒頭で述べましたように、メダカを用いる最大の利点は、容易に生体内イメージングを行うことができることです。これまで発生生物学研究で培ってきたメダカを用いた実験技術で、哺乳動物を用いた実験系では困難であった部分を補い、骨に対する私たちの理解をより深めていくことができたらと思います。(東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生命情報専攻・武山 和弘)

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