老化促進モデルマウスの顎関節軟骨退行性変化におけるIhhシグナルの関与
著者: | Ishizuka Y, Shibukawa Y, Nagayama M, Decker R, Kinumatsu T, Saito A, Pacifici M, Koyama E. |
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雑誌: | J Dent Res. 2014 Jan 22. |
- 変形性顎関節症
- 加齢と咬合異常
- Indian hedgehog
論文サマリー
変形性顎関節症は下顎骨関節軟骨に変性や破損を生じる疾患で、その病因として加齢による退行性変化、軟骨代謝異常や咬合異常などが報告されている。しかし、変形性顎関節症がどのような分子メカニズムにより制御されているのかは未だ明らかにされていない。我々の研究グループは、分泌性タンパク質Indian hedgehog(Ihh)が軟骨細胞の増殖や分化を制御することにより、下顎頭の発生や発育の過程において重要な役割を担っていることを報告してきた。本研究では、老化促進モデルマウス(Senescence-Accelerated Mouse:SAM)P8を用いて、下顎頭軟骨の退行性変化や咬合異常により誘起された変形性顎関節症の進行とIhhシグナル異常との関連性を詳細に検討した。同齢の野生型マウスと比較して、2か月齢のSAMP8の下顎頭には明らかな病理学的変化は認められなかった。しかし、3か月齢では下顎頭軟骨部は肥厚し、軟骨細胞は細胞間質に散在し、プロテオグリカンの産生も減少していた。これらの下顎頭の退行性変化は経時的に進行した。加えてIhh、レセプターであるPatch1およびシグナル関連分子のGli転写因子等の減少を伴っていたことから、 Ihhシグナル異常が下顎頭の退行性変化に関与していることが示唆された。次に、2か月齢のマウスを用い、歯の削合により誘起された咬合異常が下顎頭軟骨に及ぼす変化を検討したところ、削合野生型マウスと比較して、削合SAMP8では優位に早く退行性変化を示した。さらに、下顎頭軟骨の退行性変化を無削合‐削合SAMP8間で比較したところ、 変形性顎関節症様の変化は削合SAMP8でより早期に発症し、また、加齢した削合SAMP8ほど増悪した。これらのマウスは下顎頭の矮小化と形態異常を示し、下顎頭軟骨の表層部においてPCNA(増殖細胞核抗原)陽性細胞が減少するとともに、異所性のTUNEL陽性アポトーシス細胞が検出された。また、著しいプロテオグリカンの減少、matrix metalloproteinase 13の増加、および Ihhシグナル異常が認められた。以上の結果から、下顎頭軟骨の退行性変化にはIhhシグナル異常が関与し、さらに、加齢マウスにおいて咬合異常により下顎頭軟骨の変形性顎関節症様の変化がより進行されることが示唆された。今後、関節軟骨のホメオスタシスに及ぼすIhhと他の因子との相互作用をより明確にすることが、変形性顎関節症の予防および治療戦略として重要であると考えられる。
著者コメント
本研究は、渋川先生、永山先生、衣松先生とフィラデルフィア小児病院の小山先生との共同で行われました。実験開始からサンプリングまでのサイクルが長く、また追試や追加実験のため、大学院を含め約6年間も要しました。Acceptの知らせを受けたときは、留学中の衣松先生との夜中のビデオ通話でのディスカッションや、老化促進モデルマウスにも関わらず、ひたすら伸び続ける切歯を幾度となく削った日々などが思い出され、通勤電車の中で思わず涙してしまいました。多くの先生方から御指導いただき、大変貴重な経験ができました。御礼申し上げます。また、いつも叱咤激励してくださっていた山田教授、齋藤教授に感謝致します。(東京歯科大学・石塚 洋一)