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サイトカイン阻害療法に細胞周期制御療法を併用することで、免疫抑制を増強することなく抗関節炎効果を増強できる

Cell cycle regulation therapy combined with cytokine blockade enhances antiarthritic effects without increasing immune suppression.
著者:Hosoya T, Iwai H, Yamaguchi Y, Kawahata K, Miyasaka N, Kohsaka H.
雑誌:Ann Rheum Dis. 2014 Aug 27. pii: annrheumdis-2014-205566.
  • 関節リウマチ
  • 細胞周期制御療法
  • 滑膜線維芽細胞

細矢 匡

論文サマリー

 関節リウマチ(RA)罹患関節では、免疫細胞の浸潤とサイトカイン産生亢進に加えて滑膜細胞の増殖がみられる。生物学的製剤による抗炎症療法は実臨床でも高い有効性を示す一方、免疫抑制などの副作用がある。われわれは滑膜細胞に注目し、CDK4/6阻害による細胞周期制御療法が滑膜細胞の増殖を抑制して関節炎の動物モデルに著効することを見出し、RA治療薬への臨床応用を目指してきた。

 近年RA患者における数万人規模の人種横断的なゲノムワイド解析が実施され、約100個のRA関連遺伝子が報告された。その中にCDKファミリーの2,4,6が含まれていたことから、これらの遺伝子がRAの病因にも関与しており、CDKに対する治療がRAに対する有望な治療戦略になりうると期待された。またその一方で、現在CDK4/6に特異的が高い化合物palbociclib (CDKI)の癌領域での臨床応用が進んでいる。臨床試験では忍容性は良好で治療継続率も高かったが、一過性の血球減少がみられた。

 これまで、RA患者における生物学的製剤の併用療法を検討した臨床試験は、治療効果を増強することなく、感染症の増加を来して失敗した。我々は抗サイトカイン療法にCDKIを併用することで、抗関節炎効果が高まり、骨髄毒性や免疫抑制などの潜在的な副作用が軽減しうるかを検討した。

 抗関節炎効果はコラーゲン誘導関節炎(CIA)の実験系を用いて関節炎スコア、組織像、骨破壊像で評価した。CDKIは用量依存性の抗関節炎効果を示したが、高用量では汎血球減少をきたした。低用量のCDKIはTNFα阻害療法(etanercept®:ETN)とIL-6阻害療法(抗IL-6受容体抗体)のいずれとも相加的な抗関節炎効果を発揮し、とくにETNと低用量のCDKIの併用は、関節炎をほぼ完全に抑制した。この相加的な効果は関節炎のピーク時から併用療法を開始しても観察することができた。治療後の血清、脾細胞を用いて抗CII抗体価とCII特異的T細胞増殖を検討したが、いずれの併用療法でもCDKIを併用したことによるCIIに対する免疫応答への影響はみられなかった。

 臨床的に安全性が証明されたCDKIで抗関節炎効果を示すことができた。また低用量のCDKIと抗炎症療法との併用は協調的に関節炎の抑制効果を得ることができ、かつ獲得免疫能のさらなる抑制はきたさなかった。本成果は二つの異なる分子標的治療の協調的効果を初めて示すものであり、その効果は早期の関節炎のみならず、極期の関節炎を改善させたことから、新たなRA治療法としての開発が期待される。

細矢 匡

細矢 匡

著者コメント

 実は、本研究は医学部の学生の研究体験のためにサブテーマとして開始したものでした。第三著者がその学生ですが、幸いなことに良い結果を得ることができてこのように報告することができました。彼がいなければ今の自分はなかったかもしれません。
 この数年のうちに、CDK阻害薬がついに臨床応用されそうだという報告や、CDKファミリーがRA関連遺伝子だというGWASの結果が報告され、CDKをめぐる世間の状況が一変しました。結果的にはとてもタイムリーなタイミングでこの結果を報告できたことを喜ばしく思います。本治療法のRA患者への応用を現実のものにするべく、今後も精進いたします。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)の支援のもとで行われました。共著者の皆様をはじめ有益なアドバイスをくださったラボメンバーに感謝します。(東京医科歯科大学医学部附属病院膠原病・リウマチ内科・細矢 匡)