日本骨代謝学会

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骨折治癒早期におけるMCP/CCR2シグナルが間葉系幹細胞/前駆細胞のリクルートに重要である

MCP/CCR2 Signaling Is Essential for Recruitment of Mesenchymal Progenitor Cells during the Early Phase of Fracture Healing.
著者:Ishikawa M, Ito H, Kitaori T, Murata K, Shibuya H, Furu M, Yoshitomi H, Fujii T, Yamamoto K, Matsuda S.
雑誌:PLoS One. 2014 Aug 18;9(8):e104954.
  • 骨折
  • ケモカイン
  • MCP-1/CCR2

石川 正洋

論文サマリー

 骨折治癒過程は主に、炎症期、修復期、リモデリング期の3つのstageに分かれる。その中でも特に炎症期にサイトカインやケモカインが骨折部に放出され、また間葉系幹細胞(MSCs)がこの時期に骨折部位に遊走する事が知られている。ケモカインは白血球を炎症の場に遊走させる作用をもつ低分子サイトカインの1つであり、それぞれ固有の受容体と結合する事で作用する。本研究では骨折早期におけるケモカインの発現profilesを解析し、さらに機能的役割について検討を行った。
 Wild-typeマウスの肋骨骨折モデルを作成し、RNAを抽出して遺伝子発現を解析すると、骨折早期のみにケモカインの1つであるMCP-1の著明な発現亢進を認め、組織切片では骨膜にMCP-1発現の亢進を認めた。そこで、マウスのbone marrow stromal cellを用いて migration assayを行うと、MCP-1の濃度依存的にmigrationすることが明らかとなり、またbone marrow stromal cellはMCP-1の受容体であるCCR2が発現していることを確認した。続いて、MCP-1、CCR2各々の遺伝子欠損マウスの骨癒合を解析すると、Wild-typeマウスと比較して共に骨癒合過程の遅延が観察された。即ちMCP-1とCCR2が骨折早期に存在しないことで骨癒合が遅れた可能性が示唆された。そこで骨折早期のMCP-1とCCR2の重要性を調査するためにMCP-1の受容体であるCCR2のantagonistの投与実験を行った。コントロール群と比較して、骨折前よりアンタゴニストを投与した群では骨癒合が遅延したが、骨折後に投与を開始した群では骨癒合は遅延しなかった。これらより、骨折早期に骨膜周囲で産生されたMCP-1がCCR2を発現する多分化能を持つ細胞を骨折部に導くことが良好な骨癒合において重要であるということが示唆された。

石川 正洋

著者コメント

 骨折が治癒するためにはどのようなシグナルが必要か、どの部位に発現するのか、そしてどの時期に発現するのが重要なのだろうか?これが今回の研究を始めた際の大きなresearch questionでした。本研究では、骨折治癒過程におけるケモカインの重要性を明らかにする事ができました。本研究結果は、整形外科臨床において「骨折早期に治療を行い、手術時は可能な限り骨膜を温存することが良好な骨癒合を得る為に大切である」という骨折治療の基本理念の1つの裏付けになるものと考えます。基礎研究は多くの時間を要し、また多くの失敗にめげる事も多々あります。この研究も大学院入学当初より開始していたものが、大学院の4年間には完成せず、その後、大学院を卒業後約2年もの間、研究を継続してようやく陽の目を見ることができました。一時はもうだめかとあきらめかけ、また臨床に戻ったことで研究のことが頭を離れかけていましたが、指導していただいた多くの先生方に叱咤激励され、最後には論文として完成させることができました。また多くの後輩の大学院生たちにもとても助けられました。しかしこのような苦労をしたとしても、このように基礎研究を通じて臨床につながる知見を明らかに出来る可能性がある。ということが、臨床医が基礎研究を行う醍醐味ではないかと思います。本研究に多大な御協力を賜りました、松田教授、伊藤准教授をはじめとする共著者の先生方、研究室の皆様に厚く御御礼を申し上げます。(京都大学大学院医学研究科リウマチ性疾患制御学講座・石川 正洋)