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TOP > 1st Author > 日髙 尚子

腫瘍性骨軟化症の診断、腫瘍局在診断、治療における臨床的課題:後方視的調査結果より

Clinical Challenges in Diagnosis, Tumor Localization and Treatment of Tumor-Induced Osteomalacia: Outcome of a Retrospective Surveillance.
著者:Naoko Hidaka, Minae Koga, Soichiro Kimura, Yoshitomo Hoshino, Hajime Kato, Yuka Kinoshita, Noriko Makita, Masaomi Nangaku, Kazuhiko Horiguchi, Yasushi Furukawa, Keizo Ohnaka, Kenichi Inagaki, Atsushi Nakagawa, Atsushi Suzuki, Yasuhiro Takeuchi, Seiji Fukumoto, Fumihiko Nakatani, Nobuaki Ito
雑誌:J Bone Miner Res. 2022 Jun 11. doi: 10.1002/jbmr.4620.
  • 腫瘍性骨軟化症
  • FGF23
  • ブロスマブ

日髙 尚子

論文サマリー

 腫瘍性骨軟化症(TIO)は、骨や軟部組織に発生するphosphaturic mesenchymal tumor(PMT)がFGF23を過剰産生することにより慢性低リン血症から骨軟化症をきたす疾患である。本論文では、国内のTIO 88例を後方視的に解析し、後述の臨床的課題の現状と対策について検討した。

 日本骨代謝学会、日本内分泌学会両学会の医師会員へアンケート調査を実施した。一次調査でTIO 141例を抽出、二次調査では詳細な臨床情報を収集し、回答を得た88例を解析対象とした。

課題1. 診断が困難
 海外からの報告ではTIOは0.7人以下/10万人と非常にまれであり、また症状が非特異的であるため、日常診療で気づかれにくく診断が遅れやすい。
 今回の検討では低リン血症、FGF23関連低リン血症と診断されるまで2.4年、3.4年(中央値)を要していた。主症候は骨痛、歩行困難、病的骨折であり、初診診療科は整形外科(63.6%)が最多だった。初期診断では骨粗鬆症(25.0%)が最多だが、その他30程度の疾患名が挙がり、原因不明とされた患者も25例と多く、予想通り早期診断が困難なことが示唆された。

課題2. 腫瘍の局在診断が困難
 PMTは10mm未満と小さいものがあり、全身の骨・軟部組織に発生しうるため、局所診断が困難な場合がある。
 局所診断が可能であったのは64例(72.2%)で、うち10 mm以下の腫瘍は13例であった。FGF23分泌の傍証として、通常の画像検査(CT、MRI)以外に機能的検査(国内ではFDG-PET/CT、ソマトスタチン受容体シンチグラフィ、68Ga-DOTATOC-PET/CT、FGF23全身静脈サンプリング)が実施される。これらの有用率を検討したところ、68Ga-DOTATOC-PET/CT、FGF23全身静脈サンプリング(いずれも施設が限られ、保険適用がない)は腫瘍のサイズに関わらず80%以上の高い有用率を示した。対して、FDG-PET/CT、ソマトスタチン受容体シンチグラフィでは有用率は50-60%程度で、10㎜未満の腫瘍では20%程度と有用性が低かった(表1)。局在診断率上昇のため、68Ga-DOTATOC-PET/CT、FGF23全身静脈サンプリングの保険適用化が望まれる。

日髙 尚子
表1(論文のTable 2を局在診断に用いた機能的検査の検出率比較、SVSも含めた形で改変)

課題3. 治療に関するまとまった報告が限られている
 腫瘍摘除術の最適な術式、寛解群と非寛解群(内科的治療継続群)での経過の違い、悪性例の予後や経過など、TIOの治療関連知見はこれまで、症例報告や専門家の経験に基づくところが大きかった。
 今回、手術を実施した58例で、術式別に生化学的寛解率(血清リンの正常化)をみると、拡大切除術、辺縁切除術、掻把術(順に93.8%、65.2%、57.9%)の順に高かった。よって手術では、可能な限り拡大切除術を実施すべきと考えられた。
 最終フォロー時、寛解群では95.6%が自力歩行可能であったのに対し、非寛解群では76.9%であった。非寛解群のうち11例はブロスマブで治療しており、ブロスマブ投与群では血清ALP、Cre、iPTH値が寛解群に近い値を示し、従来治療(活性型ビタミンDと経口リン製剤)ではこれらの値が高い傾向にあった(表2)。TIOに対するブロスマブの長期有効性について、今後のRCTの結果が期待される。
 悪性例は4例あり、うち3例は成人例で転移指摘から3年以上生存しADLも自立していた。しかし1例(小児)は初回術後に速やかに転移を指摘され、4年後に死亡していた。また、TIO以外の悪性腫瘍を合併したFGF23関連低リン血症を5例認めた(肺癌2例、前立腺癌2例、進行胃癌1例)。過去の報告などから悪性腫瘍でのFGF23産生が強く疑われる一群であり、TIOとは別個に扱うべき病態と考えられる。

日髙 尚子
表2(論文のTable 5を改変、寛解、非寛解群での予後比較)

著者コメント

 TIOは非常に稀な疾患で、経験の多い施設であっても年間10例に満たない程度であり、本研究により初めて国内のTIOの臨床経過を蓄積し詳細に解析することができました。後方視的でかつアンケート調査であり、また診療時期や施設によっても得られる情報の量や質にばらつきを認めましたが、それも含めてreal world dataを得られたと考えます。本検討結果を通じて、主に整形外科や一般内科における、骨軟化症で偽骨折が好発する肋骨や大腿骨頭、大腿骨骨幹、脛骨/腓骨骨幹、踵骨、中足骨に体動時の疼痛を認める症例での低リン血症のスクリーニング検査率の上昇や、68Ga-DOTATOC-PET/CTやFGF23全身静脈サンプリングの保険適用化、局在診断や治療プロセスの標準化が推進されることを願っています。
 本研究にあたり、非常に煩雑なアンケートへの回答をはじめ、論文作成についても多くの御施設の先生方のご協力とご指導を賜りました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。(東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科・日髙 尚子)