日本骨代謝学会

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終末糖化産物(AGE3)はTGF-βの発現と分泌を増加させマウス骨髄間質系ST2細胞とヒト間葉幹細胞の石灰化を抑制する

Advanced glycation end product 3 (AGE3) suppresses the mineralization of mouse stromal ST2 cells and human mesenchymal stem cells by increasing TGF-β expression and secretion.
著者:Notsu M, Yamaguchi T, Okazaki K, Tanaka K, Ogawa N, Kanazawa I, Sugimoto T.
雑誌:Endocrinology. 2014 Jul;155(7):2402-10.
  • 終末糖化産物(AGE)
  • 骨芽細胞
  • 糖尿病
  • 骨質劣化

野津 雅和

論文サマリー

2型糖尿病では骨密度とは独立した骨の脆弱性が存在し、この機序として骨形成低下に起因する骨質劣化が考えられている。終末糖化産物(advanced glycation end products:AGEs)は糖尿病合併症の成因であり、我々はAGEsのうち糖尿病合併症に強く関与するAGE3が骨芽細胞の分化・石灰化を抑制し骨形成低下を惹起する可能性をこれまでに明らかにしてきた。しかし、その過程に介在する因子については不明であった。TGF-βは細胞の増殖、分化、アポトーシスの制御や発生、器官形成などにおいて重要な役割を担っており、骨基質にも多量に存在する。近年の動物実験における検討で、TGF-βが骨質劣化因子である可能性が明らかになってきた。AGEsはTGF-βの発現を介して神経障害や腎症の発症及び進行に関与するが、AGEsによる骨形成低下にTGF-βが関与するかについては報告がなく、この点を本研究で検討した。マウス骨髄間質細胞由来のST2細胞株およびヒト間葉系幹細胞(human Mesenchymal Stem Cell:hMSC)を用いた。マウスST2細胞はBMP-2、アスコルビン酸、βグリセロリン酸エステル添加により、hMSCはデキサメサゾン、アスコルビン酸添加により骨芽細胞へ分化誘導した。AGE3の添加によりST2細胞内におけるTGF-βのmRNA発現、細胞内および培養上清のTGF-β蛋白濃度が有意に増加した。hMSCにおいてもAGE3添加により細胞内TGF-β蛋白濃度が有意に増加した。マウスST2細胞、hMSCにおいて、AGE3添加により石灰化は対照群の28%、17%へとそれぞれ抑制されたが、TGF-βⅠ型受容体阻害剤であるSD-208の同時添加によりほぼ完全に回復し、AGE3単独添加群と比較して有意であった。両細胞におけるSD-208による石灰化回復効果には用量依存性が認められた。さらにマウスST2細胞において、AGE3添加によりOsterixやOsteocalcinの発現が有意に低下したが、これらの変化もSD208の添加により有意に回復した。上記の所見から、AGE3はTGF-βの発現、分泌を増加させることで骨芽細胞の分化および石灰化を抑制することが明らかになった。さらにAGE受容体の1つであるthe Receptor for AGE (RAGE)のsiRNA transfectionにより、RAGE発現をdown-regulateすると、AGE3添加により抑制された石灰化が有意に回復したことから、これらの所見は少なくとも一部RAGEを介していることが示唆された。以上から、AGE3は間葉系細胞のRAGEに結合してTGF-βの発現・分泌を促進し、その骨芽細胞への分化および成熟化を抑制することが判明した。他の糖尿病合併症と同様に骨合併症である骨質劣化においてもTGF-βがその増悪に関与し、加えてTGF-βは原発性のみならず続発性骨粗鬆症をきたす代表例のひとつである糖尿病骨病変においても骨質劣化に関与することが示唆された。

野津 雅和

著者コメント

私が基礎研究を始めたのは約3年前で、与えていただいたテーマが「糖尿病における骨質劣化機序の解明」でした。当初は先輩である岡崎恭子先生に繰り返し手技指導をいただき、指導医である山口徹先生と毎週Discussionをすることで、実験の進め方、論文の読み方や書き方、結果の解釈の仕方などを学ばせていただきました。私が研究素人であったにも関わらず、しっかりと成果を論文にできましたのは、ひとえに指導医である山口徹先生の力によるものです。研究の総括や研究環境を与えていただいた杉本利嗣教授、支えて下さった技術職員の柳楽さんにも深謝申し上げます。地方の大学での限られたマンパワーによっていかに世界に新知見を発信できるかを考えながら、これからも前進していきたいと思います。(島根大学医学部内科学講座内科学第一・野津 雅和)