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LRF/OCZFはBcl-xl mRNAを増加し破骨細胞の生存を亢進する:RNA結合タンパク質SAM68を介した新たな制御メカニズムの可能性

LRF/OCZF overexpression promotes osteoclast survival by increasing Bcl-xl mRNA: a novel regulatory mechanism mediated by RNA binding protein SAM68.
著者:Xianghe Xu, Takeo Shobuike, Makoto Shiraki, Asana Kamohara, Hirohito Hirata Masatoshi Murayama, Toshio Kukita, Akiko Kukita
雑誌:Lab Invest . 2022 Apr 26. doi: 10.1038/s41374-022-00792-w.
  • 破骨細胞
  • アポトーシス
  • Bcl-xl

久木田 明子

論文サマリー

 Leukemia-related factor (LRF)は、ラットオーソログがOsteoclast zinc finger protein (OCZF)、ヒトオーソログはFBI-1 という名前で呼ばれるzBTBファミリーの転写制御因子です。また、遺伝子名はZBTB7Aです。ZBTB7Aはリンパ腫、乳癌、肺癌、肝癌、大腸癌などの癌細胞の生存、増殖及び転移を促進することが知られています。一方、ZBTB7Aは造血系の細胞の分化や維持には不可欠なタンパク質です。B細胞やTregへのコミットメントや分化、成熟B細胞や赤血球のアポトーシスなどを制御することがわかっています。zBTBタンパク質は、N末端にタンパク質相互作用をもつBTBドメイン、C末端にDNA結合ドメインであるZinc fingerモチーフを持っています。BTBドメインを介してNCORやSMRTなどの転写コレプレッサータンパク質をリクルートし転写抑制作用を発揮することや、BTBドメインがCUL3というユビキチンリガーゼに結合してユビキチン化のアダプターとしても作用し、結合タンパク質のユビキチン化パターンを変化させるなどの多彩な作用を持つことがわかっています(図1)。

久木田 明子

 著者らは、OCZFを破骨細胞のcDNAライブラリーから発現クローニングによって単離し(A Kukita Blood 1999)、破骨細胞の分化と機能における作用について解析を行ってきました。OCZFをカテプシンKプロモーター制御下で強発現するトランスジェニックマウスOCZF-Tg(♂)を作成したこところ、骨量の減少、破骨細胞の減少が見られ、骨髄細胞からin vitroで形成する破骨細胞の生存能が亢進していました(A. Kukita Arthritis & Rheumatism 2012)。ところで、FBI-1が、前立腺癌細胞でアポトーシス関連タンパク質Bcl-xのalternative splicing に関与するRNA結合蛋白質Sam68 (Src-associated substrate in mitosis of 68 kDa)の作用を阻害することにより、抗アポトーシス蛋白質Bcl-xLのsplicingが亢進され、癌細胞の生存が亢進することが報告されました (Bielli, P. EMBO Rep 2014)。本研究ではOCZF-Tgマウス(♀)を用いた骨粗鬆症モデルマウス(OVXマウス)における骨量減少を解析するとともに、破骨細胞生存活性におけるLRF/OCZFを介したメカニズムについて調べました。

 OCZFTgマウスはWTマウスと比較して骨量が有意に減少しており、OVXによる骨量減少についてもWTマウスでの骨量減少と比較し骨量の減少の度合いがさらに亢進していました(図2)。OCZFTgマウスから形成される破骨細胞では抗アポトーシス蛋白質Bcl-xL mRNAレベルが亢進していました。面白いことに、このOCZFTgマウス破骨細胞ではSam68のタンパク質のレベルが顕著に低下していました。さらに、Sam68shRNAレンチウイルスを用いてSam68の発現を抑制したところ、破骨細胞におけるBcl-xL mRNAの発現が亢進しました。これらの結果からOCZFは Sam68のタンパク質を調節し、Bcl-xLのalternative splicingを制御することにより、破骨細胞の生存を調節する可能性が考えられました。OCZFはBTBドメインを介してCul3などのユビキチンリガーゼと相互作用しZinc fingerドメインに結合するSam68のタンパク質の安定性を制御することが考えられます(図3)。最近、関節炎に伴う骨破壊に破骨細胞のアポトーシスの異常が関与することも報告されています。LRF/OCZFは病的な骨破壊を制御するための標的蛋白質となる可能性が考えられます。

久木田 明子

久木田 明子

著者コメント

 今から20年前、Egr-1コンセンサス配列を組み込んだルシフェラーゼベクターを作成してOCZFによるEgr-1の転写抑制活性について調べていた時に、OCZFがEgr-1の転写活性を抑制するのはEgr-1を分解する機能を持つからであるという結論に至りました。さらにOCZFのmutantを作成してみたところ、BTBドメインにその活性があることがわかりました。しかしながら、まだその当時はBTBドメインのユビキチン活性との関係が分かっていない時期でしたので、論文がアクセプトとなりませんでした。やはり間違っていなかったという思いと、どんな雑誌でもいいから投稿しておくべきだったと思いながらこの論文を作成しました。第一著者の徐さんは博士課程の大学院に入った当初から学位論文のテーマとOCZFの機能の解析に熱心に取り組んでくれました。本論文の組織解析は、九大歯学研究院分子口腔解剖学分野の久木田敏夫との共同研究で行いました。(佐賀大学医学部人工関節学講座・久木田 明子)