日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 深澤 和也

間葉系幹細胞のCDK8は破骨細胞の機能を調節することで骨恒常性を維持する

The role of CDK8 in mesenchymal stem cells in controlling osteoclastogenesis and bone homeostasis.
著者:Takanori Yamada, Kazuya Fukasawa, Tetsuhiro Horie, Takuya Kadota, Jiajun Lyu, Kazuya Tokumura, Shinsuke Ochiai, Sayuki Iwahashi, Akane Suzuki, Gyujin Park, Rie Ueda, Megumi Yamamoto, Tatsuya Kitao, Hiroaki Shirahase, Hiroki Ochi, Shingo Sato, Takashi Iezaki, Eiichi Hinoi
雑誌:Stem Cell Reports. 2022 Jul 12;17(7):1576-1588. doi: 10.1016/j.stemcr.2022.06.001.
  • 間葉系幹細胞
  • CDK8
  • 破骨細胞支持

深澤 和也

論文サマリー

 老化は、骨組織の組成や構造の変化、あるいは慢性的な機能低下を誘導することで、骨粗鬆症を含む骨関節疾患を引き起こすことが知られています。また、老化間葉系幹細胞は、破骨細胞の機能を活性化することで、骨粗鬆症の発症・進展メカニズムに関与することが知られています。しかしながら、「間葉系幹細胞がどのようなメカニズムを介して、破骨細胞の骨吸収を制御しているのか?」について、詳細は不明のままでした。

 そこで本研究では、まず「加齢により、間葉系幹細胞においてどのような因子の発現が増加するのか?」をシングルセルRNA-seq解析により検討しました。その結果、間葉系幹細胞において、加齢とともにCDK8の発現が増加することが示されました。

 次に、「間葉系幹細胞のCDK8は骨恒常性維持に関係しているのか?」を検討することにしました。Prx1-Cre;CDK8fl/fl (間葉系幹細胞特異的CDK8欠損マウス)を作製し、骨代謝解析を実施したところ、Prx1-Cre;CDK8fl/flでは、骨量の増加が観察されました。さらに、Prx1-Cre;CDK8fl/flでは、破骨細胞の数や機能が低下していることが明らかになりました。

 また、CDK8による骨恒常性維持に関する分子メカニズムを解析した結果、間葉系幹細胞のCDK8は、STAT1-RANKLシグナル経路を調節することで、破骨細胞の機能を制御していることが示唆されました。

 私たちは以前、CDK8阻害剤KY-065を開発しており、この薬剤が脳腫瘍グリオブラストーマの治療薬となることを報告しています (Fukasawa et al.,Oncogene 2021)。そこで、KY-065が骨粗鬆症の治療薬候補となるかどうかを検討することにしました。骨粗鬆症モデルマウスにKY-065を投与したところ、骨粗鬆症による破骨細胞の過剰な活性化と骨量の減少が大幅に抑制されることが明らかとなりました。

 以上の結果から、間葉系幹細胞のCDK8はSTAT1-RANKLシグナル経路を介して、骨量を制御すること、また、CDK8阻害剤KY-065が新規骨粗鬆症治療薬の候補となることが示唆されました (図1)。

深澤 和也
図1: 本研究成果のまとめ。CDK8はSTAT1-RANKLシグナル経路を調節することで骨量を制御する。CDK8阻害剤KY-065は、新規骨粗鬆症治療薬の候補である。

著者コメント

 当研究室では「幹細胞」をキーワードに、がん領域および骨代謝領域の研究を実施しています。以前、私たちはグリオーマ幹細胞において、CDK8が幹細胞性を制御することを報告しています (Fukasawa et al., Oncogene 2021)。本研究は、「間葉系幹細胞においても、CDK8は何らかの機能を持つのでは?」、という素朴な疑問からスタートしました。
 研究初期の段階で、Prx1-Cre;CDK8fl/flにおいて骨量が増加することを見出したものの、間葉系幹細胞の幹細胞性や骨芽細胞分化などには表現型が認められず、メカニズム解析に苦戦しました。しかしながら、多くの先生方のご協力により、「間葉系幹細胞による破骨細胞支持」という概念に着地し、研究成果を論文化することができました。
 本研究の遂行にあたり、お世話になった先生方や研究室の皆様に深く感謝いたします。(岐阜薬科大学大学院 薬理学研究室・深澤 和也)