日本骨代謝学会

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成長に伴う骨格の変化とリン代謝の変容

Growth-related Skeletal Changes and Alterations in Phosphate Metabolism
著者:Toshimi Michigami, Kanako Tachikawa, Miwa Yamazaki, Tatsuro Nakanishi, Masanobu Kawai, Keiichi Ozono
雑誌:Bone 2022 Aug; 161: 116430. doi: 10.1016/j.bone.2022.116430.
  • リン
  • 成長
  • 骨細胞

道上 敏美

論文サマリー

 小児の血清リン値は成人よりも高く維持されている。このことは、成長過程にある骨格や軟部組織に付加されるべき高いリン需要の充足に寄与すると考えられるが、成長に伴いリン代謝が変化する機序は明らかではない。一方、骨芽細胞は骨細胞への分化の過程で、fibroblast growth factor 23 (FGF23)をはじめ、X連鎖性低リン血症性くる病(X-linked hypophosphatemic rickets: XLH)の責任分子であるphosphate-regulating gene with homologies to endopeptidases, on the X chromosome (PHEX)、常染色体潜性低リン血症性くる病1型の責任分子であるdentin matrix protein 1 (DMP1)など、リン代謝に関わる分子群の発現を獲得する。そこで、今回、成長による骨成熟がリン代謝制御の変化をもたらすとの仮説を設定し、マウスを用いて検討を試みた。

 実験には、4週齢と12週齢のC57BL/6J雄性マウスを使用した。血清リン値は幼若マウスで有意に高かった。リンの貯留はFGF23の産生増加をもたらすことが知られているが、血清FGF23値は成獣の方が高かった。免疫染色においても、骨細胞のFGF23陽性率は成獣の方が高かった。さらに、骨からタンパク質を抽出し、ELISAにて骨中FGF23を測定したところ、成獣が幼若マウスよりも高値を示した。次にFGF23作用の主たる標的である腎臓の遺伝子発現を解析したところ、幼若マウスの腎臓においては、成獣と比較してビタミンD-24水酸化酵素の発現が低く、IIc型Na+/Pi共輸送担体の発現が高かった。このことから、成長過程でFGF23産生が増加し、腎臓でのFGF23作用が増強することが示唆された。

 次に、成長過程で骨からのFGF23産生が増加する機序を明らかにするため、骨芽細胞および骨細胞を単離して解析した。Fgf23の発現は成獣骨細胞の方が幼若マウス骨細胞よりも高いことが確認された。一方、Dmp1、Phex、Runx2、Alpl、Ank、Fgfr1など、多くの遺伝子の発現が、幼若マウスの細胞で成獣の細胞よりも著明に高かった。さらに、細胞外環境中のリンのavailabilityの変化に対する骨芽細胞・骨細胞の応答性を比較した。成獣骨細胞におけるFGF23産生はリン刺激により増加したが、幼若マウスの骨細胞では変化を示さなかった。また、Alplの発現は、成獣の細胞ではリン刺激で著明に抑制されたが、幼若マウスの細胞では変化を示さなかった。一方、AnkFgfr1の発現は幼若マウスの細胞ではリン刺激により増加を示したが、成獣の細胞では逆に低下した。

 以上の結果から、成長に伴う血清リン値の低下は、骨からのFGF23産生増加に伴うFGF23-Bone-Kidney axisの増強に起因することが示された。成長に伴うFGF23産生増加には、骨細胞局所でFGF23を負に制御するDmp1やPhexの発現減少の関与が示唆される。さらに、骨細胞のリン応答性の変化も、成長に伴うリン代謝の変容に関与している可能性がある。

道上 敏美
成長に伴う骨細胞の変化がリン代謝の変容をもたらす。骨細胞におけるDMP1やPHEXの発現は幼年期から成体期にかけて低下し、FGF23の産生増加と血清リン値の低下を引き起こす。細胞外リン酸に対する骨細胞の応答性は幼年期と成体期で異なり、このことは成長過程でリンのavailabilityに対する感受性が変化することを示唆する。

著者コメント

 私はもともと小児科医であり、研修医の頃からずっと、小児の血清リン値が成人よりも高く維持される機序を知りたいと思ってきました。FGF23の産生制御には多くの因子が関わっているため、ヒトにおいては一貫したデータが得られていませんが、今回のマウスを用いた検討から、幼年期から成年期にかけてのリン代謝の変化が、骨細胞におけるDmp1Phexなどの遺伝子発現の劇的な変化とそれに伴うFGF23の産生増加、さらにはリン応答性の変化と緊密に関連していることを示すことができました。実験に協力してくれた立川加奈子さん、山﨑美和さんをはじめ、ラボの皆さんに心より感謝いたします。(大阪母子医療センター研究所 骨発育疾患研究部門・道上 敏美)