日本骨代謝学会

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骨修復過程における骨格系前駆細胞の多様性と細胞間相互作用の理解

Single-cell RNA sequencing unravels heterogeneity of skeletal progenitors and cellecell interactions underlying the bone repair process
著者:Mika Nakayama, Hiroyuki Okada, Masahide Seki, Yutaka Suzuki, Ung-Il Chung, Shinsuke Ohba, Hironori Hojo
雑誌:Regenerative Therapy 21 (2022) 9-18
  • 骨格系前駆細胞
  • 骨再生
  • シングルセル解析

中山 美佳

論文サマリー

 本論文は、マウスモデルにおいて、骨修復機構を一細胞レベルで詳細に検討することにより、新たな骨再生の候補分子を探索した。具体的には、組織損傷部位におけるSox9陽性骨格系前駆細胞の細胞系譜実験と、シングルセルRNA-seq (Single Cell RNA-sequencing, scRNA-seq)解析を行うことで、骨格系前駆細胞から骨芽細胞への連続的な分化機構を解明した。さらに、バイオインフォマティクスを用いて骨修復に関連するシグナル群を同定した。その中で、ケモカインの一つCcl9の中和抗体を、吸収性コラーゲンスポンジとともに骨欠損部位に埋植すると骨再生効果を示すことが明らかになった。

 Sox9はマウス胎生期における軟骨内骨化初期に認められる間葉凝集時期から発現し、その後骨組織を構成する種々の骨格系細胞に分化することが知られている。マウス成獣においては、骨膜中の骨格系幹細胞において発現することが知られている。我々は、Sox9は、骨化様式に関係なく骨修復過程における骨格系前駆細胞で発現するのではと考え、Sox9-CreERT2;R26RtdTomatoマウスを用い、Sox9陽性骨格系前駆細胞の細胞系譜実験を行った。その結果、骨修復過程において、Sox9陽性細胞は、頭蓋縫合から骨欠損部位へ遊走すること、また、骨欠損部位においてde novoで出現することが明らかになり、これらのSox9系譜細胞が骨修復に寄与する可能性を示した。

 次に、同マウスの骨修復モデルとして、頭蓋骨1 mm欠損作製後、細胞集団を用いてscRNA-seq解析を行った。骨格系前駆細胞集団の遺伝子発現プロファイリング、擬似時間解析および転写因子活性の推定解析の結果、Sox9陽性骨格系前駆細胞が、骨芽細胞と脂肪系前駆細胞の2方向に分化する可能性を示した(図a)。

 さらに、骨修復に寄与する細胞間シグナルネットワーク解析により、ケモカインの一つであるCcl9がマクロファージ系細胞と骨格系細胞間ではたらくことが推定された。そこで、Ccl9活性制御の骨再生に与える影響を検討するため、マウス頭蓋骨の臨界サイズ骨欠損マウスモデルを用いた検証を行ったところ、抗Ccl9抗体と吸収性コラーゲンスポンジの組み合わせが有意に骨再生を促進することが明らかになった(図b)。今後、骨修復プロセスの全ネットワークの解明と骨免疫学的シグナル活性の最適が、骨再生の良好な転帰をもたらす可能性があると考えられる(図c)。

中山 美佳
図:(a) Monocle3を用いたtrajectory解析結果 (b)Ccl9抗体とINFUSETM Bone Graft留置後のマイクロCT評価(c)骨修復メカニズムの仮説

著者コメント

 骨修復の革新的治療法開発を目指し、骨格系前駆細胞の骨修復機構を一細胞レベルで詳細に検討することにより、新たな骨再生の候補メカニズムと分子を探索してまいりました。今回、scRNA-seq解析で候補分子を探索するだけではなく、実際にin vivo検討にて骨再生した結果を得られたこと、特にマクロファージによる骨格系前駆細胞シグナル制御に着目して得られた結果は、骨免疫メカニズムを踏まえた新しい骨再生戦略への発展につながっていくことを期待しています。
 本研究にあたりご指導頂きました、東京大学大学院工学系研究科北條・鄭研究室の先生方、長崎大学(現、大阪大学)大庭伸介教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科 鈴木穣教授、関真秀特任准教授に心より感謝申し上げます。(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター・中山 美佳)