びまん性特発性骨増殖症(DISH)や若年性骨粗鬆症症例におけるENPP1ヘテロ接合・複合ヘテロ接合遺伝子変異の同定
著者: | Hajime Kato, Anenya J Ansh, Ethan R Lester, Yuka Kinoshita, Naoko Hidaka, Yoshitomo Hoshino, Minae Koga, Yuki Taniguchi, Taisuke Uchida, Hideki Yamaguchi, Yo Niida, Masamitsu Nakazato, Masaomi Nangaku, Noriko Makita, Toshinari Takamura, Taku Saito, Demetrios T Braddock, Nobuaki Ito |
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雑誌: | J Bone Miner Res 2022 Mar 26. doi: 10.1002/jbmr.4550. |
- ENPP1
- 若年性骨粗鬆症
- OPLL
論文サマリー
ENPP1ホモ接合遺伝子変異は、乳児期から血管中膜石灰化をきたし生後半年以内の致死率が50%前後と非常に高い乳児全身性動脈石灰化(GACI)をきたしうる。またENPP1ホモ接合遺伝子変異でGACIを生じていない症例やGACIを生じた症例の一部においてはFGF23過剰による慢性低リン血症を生じる常染色体潜性くる病・骨軟化症2型(ARHR2)を惹起し、ARHR2の成人例は傍脊柱靭帯などに顕著な異所性骨化をきたすことが知られている。その一方で、ENPP1ヘテロ接合・複合ヘテロ接合遺伝子変異の表現型については不明な点が多い。若年性骨粗鬆症ないし、広範に傍脊柱靭帯骨化を呈する疾患であるDISHと診断され受診した以下の3例においてENPP1ヘテロ接合・複合ヘテロ接合遺伝子バリアントを同定したため、ENPP1の機能解析を行った。
症例1:47歳男性。上下肢の脆弱性骨折が複数回あり、腰痛および膝・手・足関節痛が出現したため近医を受診。レントゲンで腰椎圧迫骨折を指摘され受診した。
症例2:77歳女性。近医でDISHと診断され、精査加療目的に紹介された。
症例3:54歳女性。近医でDISH、後縦靭帯骨化症(OPLL)、股関節周囲の異所性骨化、アキレス腱付着部の骨化を指摘され(図1)、精査目的に受診した。
症例1ではリンが正常下限であり、低リン血症性くる病・骨軟化症の軽症例である可能性を疑った。また、症例2ではFGF23が正常上限、症例3では血清リンが正常下限であったため、遺伝性FGF23関連低リン血症のうち、異所性骨化を呈することが知られている疾患(ARHR2、X連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症[XLH])の軽症例である可能性を疑った。遺伝性低リン血症性くる病・骨軟化症に関連する遺伝子におけるエクソン領域の低頻度バリアントを確認したところ、症例1はヘテロ接合ENPP1 c.536A>G (p.Asn179Ser [N179S])、症例2はヘテロ接合ENPP1 c.1352A>G (p.Tyr451Cys [Y451C])を、症例3は症例1および症例2で同定したバリアントを複合ヘテロ接合で有していた。複数のIn silico予測ツールがこれらバリアントの機能障害を示唆しており、実際にIn vitro機能解析では、c.536A>G、c.1352A>GそれぞれでWild typeと比較して45%、30%の活性となっていた(図2)。また、ENPP1はATPを加水分解してピロリン酸を産生することが知られており、実際に3症例における血漿ピロリン酸を測定すると全例で低下していた。従って、これらのバリアントは機能喪失型変異と考えられた。以上から若年性骨粗鬆症、DISH、OPLLを呈する症例の中にはENPP1遺伝子変異を有する症例が少なからず存在している可能性が示唆された。
図1:症例3における異所性骨化
A-C:広範な傍脊柱靭帯骨化、D,E:股関節周囲の異所性骨化、H,I:アキレス腱の異所性骨化
図2:同定した遺伝子変異のIn vitro機能解析
N179S、Y451CはそれぞれWTの45%、30%程度の活性となっている。
著者コメント
大学院へ入学後、伊東伸朗先生に御指導頂きながら、遺伝性FGF23関連低リン血症や低ホスファターゼ症の成人期合併症について研究してきました。研究を続ける中で、遺伝性FGF23関連低リン血症の一部疾患(ARHR2, XLH)がOPLLや股関節周囲の骨棘形成、アキレス腱付着部症などの異所性骨化を呈し、それらによる疼痛、神経障害、関節可動域制限によりQOLが非常に低下していることを改めて認識しました。またENPP1/DMP1変異のヘテロ/複合ヘテロ接合やXLHの軽症例がOPLLやDISHといった症例に含まれているのではないかと予想していたところ、それを裏付ける症例に遭遇し今回の報告に至りました。共著のYale大のBraddock医師らはGACIを標的としてENPP1の酵素補充療法を第1相試験まで進めていますが、ENPP1変異を有するOPLLやDISH症例においても同薬の治療、進展予防効果が期待できるかもしれず、今後はOPLLと診断された症例の中にENPP1の変異を有する症例がどれほど存在するのかを明らかにすべく、研究を進めていきたいと考えております。本研究の実施に際しては、症例の御紹介、遺伝子変異の同定、機能解析に至るまで、当研究室以外に多くの施設の共著の先生方に御協力頂きました。この場を借りて改めて御礼申し上げます(東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科・加藤 創生)