日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 上中 麻希

骨芽細胞由来の細胞外小胞は骨形成期から骨吸収期への相転換に関与する

Osteoblast-derived vesicles induce a switch from bone-formation to bone-resorption in vivo
著者:Maki Uenaka, Erika Yamashita, Junichi Kikuta, Akito Morimoto, Tomoka Ao, Hiroki Mizuno, Masayuki Furuya, Tetsuo Hasegawa, Hiroyuki Tsukazaki, Takao Sudo, Keizo Nishikawa, Daisuke Okuzaki, Daisuke Motooka, Nobuyoshi Kosaka, Fuminori Sugihara, Thomas Boettger, Thomas Braun, Takahiro Ochiya, Masaru Ishii
雑誌:Nat Commun (2022) 13:1066 https://doi.org/10.1038/s41467-022-28673-2
  • 骨芽細胞
  • 細胞外小胞
  • microRNA

上中 麻希
前列左は共筆頭著者の山下さん、前列右は著者。後列左は石井優教授、後列右は菊田順一准教授。

論文サマリー

 骨は骨吸収と骨形成を繰り返し、絶えず代謝を行なっています。この代謝サイクルを適切に回すことが、健康に生きていく上で重要であり、そのメカニズム解明は骨疾患治療において欠かせません。しかし骨吸収から骨形成への移行シグナルは様々な分子が同定されてきましたが、骨形成期がどのように完了し、次の骨吸収期へどのような因子が関与しているのか未だ不明な点が多いのが現状です。本研究では骨芽細胞が細胞外小胞を介して互いに連携することで骨形成を完了へ導き、破骨細胞を誘導することを明らかにしました。

 まず高解像度のイメージング技術を用い、生体骨髄内において骨芽細胞の動態を詳細に観察しました。そして骨表面に集団として存在する骨芽細胞に、細胞外小胞を介した骨芽細胞間ネットワークが存在することを発見しました。この機能を調べるために、骨芽細胞由来の細胞外小胞を単離し、骨芽細胞と共培養を行なったところ、骨芽細胞由来の小胞は、Runx2の発現、ALP活性、石灰化を抑制し、骨芽細胞分化抑制作用を示しました。同様に小胞と共培養した骨芽細胞はRanklの発現上昇Opgの発現低下を示し、破骨前駆細胞との共培養において破骨細胞分化を誘導しました。加えてマウス頭蓋骨損傷モデルにこの小胞を投与したところ、治癒遅延を認めたことより、細胞外小胞を介した骨芽細胞間ネットワークは、骨芽細胞分化を抑制し、破骨細胞分化能を促進することが示唆されました。

 次にそのメカニズムを知るため、小胞に含まれるmicroRNAに注目し網羅的発現解析を行いました。その中で高発現を示したmiR-143-3pを骨芽細胞に強発現させたところ、小胞と同様に骨芽細胞の分化抑制、破骨細胞分化誘導能の上昇を認めたことから、miR-143-3pが小胞の骨芽細胞に対する主な機能を担っている可能性が考えられました。miR-143/145骨芽細胞特異的ノックアウトマウスの解析では、骨量上昇、骨形成マーカーの上昇を認め、副甲状腺ホルモンの間欠投与により骨代謝回転を上げると、骨吸収マーカーの低下を認めました。またノックアウトマウスから得たmiR-143欠損小胞は、骨芽細胞のRunx2Ranklの発現に影響を与えませんでした。これらの結果よりmiR-143を含む骨芽細胞由来小胞が骨芽細胞の分化抑制、破骨細胞分化促進に寄与することが示されました。

 本研究では、細胞外小胞を介した骨芽細胞間ネットワークが骨形成期から骨吸収期への相移行に関与することを示しました。そのメカニズムとして、小胞に含まれるmiR-143が寄与している可能性が示唆されました。

上中 麻希

著者コメント

 骨の生体イメージングを用い骨芽細胞の動態を詳細に観察し続けた結果、小胞様の構造物に気がついたのが、本研究のきっかけでした。「Seeing is believing」とは正にその通りで、生体イメージングで得た画像を観察することで、構造や動きを瞬時に感じとり、インスピレーションに繋がりました。また研究を進めていく各段階において、常に原点回帰する拠り所となりました。今後も骨代謝研究において道標となり得るものだと実感しています。
 本研究を遂行するにあたり、素晴らしい研究環境とご指導を下さいました石井優教授、菊田順一准教授、そして多大なご助力を賜りました共著の先生方に、この場をお借りして心から感謝申し上げます。(大阪大学免疫細胞生物学教室・上中 麻希)