再生軟骨の成熟には軟骨細胞とマクロファージとの直接接触が必要である
著者: | Kengo Kanda, Yukiyo Asawa, Ryoko Inaki, Yuko Fujihara, Kazuto Hoshi, Atsuhiko Hikita |
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雑誌: | Sci Rep. 2021 Nov 18;11(1):22476. |
- 再生軟骨
- マクロファージ
- 細胞外小胞
論文サマリー
組織から単離された軟骨細胞は培養中に基質産生能を喪失するが、生体内に移植されると基質産生を再開し、軟骨組織成熟が進行する。しかしながら現在、脱分化した軟骨細胞が生体内で再分化するメカニズムの詳細は未だ不明である。現行の軟骨再生医療では、再生軟骨の成熟度は移植部位の環境、患者自身の健康状態などの影響を受けるため、治療効果の不確実性が存在する。再生軟骨は移植後に宿主の細胞因子、液性因子などの影響を受けて成熟すると考えられている。本研究では、生体内における軟骨成熟を促進する細胞因子について検討した。
移植軟骨細胞と宿主細胞との細胞間接触がない状態を作るため、0.4 µmの小孔を持つスナップウェルインサートを用いて、液性因子が透過する一方で宿主細胞の侵入を妨げる閉鎖デバイスを作製した。軟骨細胞をデバイス内底面へ播種・封入、あるいは宿主細胞との接触が得られる外底面へ播種し、ヌードマウスへ移植した結果、内底面群では移植軟骨細胞により軟骨基質が産生されない一方、外底面群において基質が産生されることを確認した。外底面群の組織学的解析において移植軟骨細胞層に微小血管・マクロファージの存在を認めたため、これらの細胞株であるHUVEC・RAW264.7細胞あるいはM1・M2誘導したRAW264.7細胞を、それぞれ軟骨細胞とともにデバイス内へ封入してヌードマウスへ移植した。その結果、誘導をかけないRAW264.7細胞を添加した群において軟骨基質の形成が認められた。さらに軟骨細胞とRAW264.7細胞とのコミュニケーションについて検討するため、両者をin vitroで共培養した。その結果、共培養開始早期にRAW264.7細胞から近接した軟骨細胞へ細胞外小胞を介してRNA輸送が生じることを観察した。さらに細胞外小胞によるコミュニケーションの詳細の検討のために前述したインサートメンブレン、exosome・microvesicle (MV)のインヒビターを用いたところ、インサートメンブレンの介在・MVインヒビターにより両者のコミュニケーションが最も大きく阻害された。これらの結果から、再生軟骨は宿主側の未熟なマクロファージとの直接接触あるいは非常に近接した状態で、MVを中心とする細胞外小胞を介した情報伝達を受けて成熟していることが示唆された。本研究の結果により、in vivoでの軟骨成熟を必要とする現在の軟骨再生医療の短所を克服する、in vitroでの軟骨再生の実現につながる新しい知見を示すことができた。
In vitroでの軟骨細胞・RAW264.7細胞のコミュニケーションにおいての細胞膜成分の追跡。
赤(CM-DiI):RAW264.7の細胞膜、緑(SYTO RNASelect):RAW264.7細胞のRNA。
(A、B)黄色のアスタリスクはRAW264.7細胞を、黄色い丸は軟骨細胞を示す。
(A)共培養4時間後の蛍光画像。SYTO RNASelect陽性点がCM-DiIに囲われている(白矢印)。
(B)共培養24時間後の蛍光画像。軟骨細胞がRAW264.7細胞からのRNAを取り込んでいる(白矢印)。
著者コメント
私は大学卒業時、基礎医学の道に進むべきか臨床医学の道に進むべきかで悩んでいました。結局保険医の資格を得るためにまずは臨床研修をすることを選択し、その後はその流れで臨床の道を進みました。しかしながら形成外科医として10余年の勤務を経たのちも基礎医学に対して抱いた興味を忘れられず、一度その世界を覗いてみようという動機で大学院へ入学いたしました。そこでは臨床の分野では味わうことのない失敗の連続に大分鍛えられましたが、興味深い結果が得られた時の感動は一入でした。教室の皆さまには基礎医学において全くの白紙の状態であった私をいろいろな方向からサポートしていただき、このような形で研究の成果を残すことができました。大変感謝しております。(東京大学大学院医学系研究科 感覚・運動機能医学講座・神田 憲吾)