日本骨代謝学会

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イバンドロネートとエルデカルシトールの併用投与は閉経後骨粗鬆症モデルラットにおける骨減少と骨微細構造破綻を抑制する

Combination treatment with ibandronate and eldecalcitol prevents osteoporotic bone loss and deterioration of bone quality characterized by nano-arrangement of the collagen/apatite in an ovariectomized aged rat model.
著者:Ryosuke Ozasa, Mitsuru Saito, Takuya Ishimoto, Aira Matsugaki, Yoshihiro Matsumoto, Takayoshi Nakano.
雑誌:Bone. 2022 Jan 5;157:116309. doi: 10.1016/j.bone.2021.116309.
  • 骨粗鬆症薬
  • 閉経後骨粗鬆症
  • 骨基質配向性

小笹 良輔
左写真:左より石本卓也 先生、中野貴由 先生、小笹良輔(著者)、松垣あいら 先生(大阪大学大学院工学研究科)
右上写真:斎藤充 先生 (東京慈恵会医科大学)
右下写真:松本義弘 様 (中外製薬株式会社)

論文サマリー

 本論文は、骨粗鬆症における骨微細構造異常と骨強度劣化の正常化に対する骨粗鬆症薬の有効性を証明した。具体的には、ビスホスフォネート剤の一種であるイバンドロネート(IBN)と活性型ビタミンD3誘導体のエルデカルシトール(ELD)の併用投与により、骨粗鬆症モデルにおける骨減少およびミクロ~ナノレベルの階層的骨微細構造の破綻を抑制できることを初めて明らかにしている(図1)。

 骨微細構造は、ミクロレベルでの海綿骨構造、およびナノレベルでの骨基質配向性(コラーゲン線維とアパタイト結晶の優先配向方向とその配列度合い)を指標とし、骨の力学特性を決める骨質因子のひとつである。正常なSham群の腰椎海綿骨構造は、主に頭尾軸方向(//主応力方向)へと優先しつつ、他方向にも配向化し荷重変動に耐えうる構造を示す(図2A)。それに対して、骨粗鬆症(VEH)群は、骨梁厚さ・骨梁数減少による海綿骨量の減少とともに、骨梁の構造異方性(Degree of Anisotropy: DA)と形状指標(Structural Model Index: SMI)を上昇した(図2B)。これは、骨粗鬆症における骨吸収が主応力方向以外に走行する骨梁にて優先的に生じることを意味している。同様に、VEH群は、皮質骨の頭尾軸方向に沿った骨基質配向性を有意に上昇し(図3B, C)、同方向へのヤング率を上昇した(図3D)。こうしたエストロゲン欠乏性骨粗鬆症での自発的な微細構造変化により、骨は、主応力方向への抵抗力を維持する反面、それ以外の方向から負荷される、転倒時の外力などに対しては脆弱であり、骨折リスクは増大する。

 これに対して、IBNとELD投与群は、いずれにおいても、海綿骨構造と骨基質配向性を正常値に維持した(図2, 図3B, C)。とりわけ、IBN+ELD併用投与群は、骨粗鬆症による海綿骨量と皮質骨量の減少を抑制するだけではなく、いずれの群よりも有意に高い海綿骨量(図2B)、Sham群とELD群よりも有意に高い皮質骨量(図3A)を示した。IBNは、成熟破骨細胞のアポトーシスを誘導するとともに、骨芽細胞によるカップリング因子の産生を介して骨吸収を抑制することが報告されている。一方で、ELDは、前駆細胞からの細胞分化や細胞遊走、骨組織におけるRANKL発現の低下により破骨細胞の成熟化を抑制しつつ、骨吸収に依存しない骨形成(ミニモデリング)を誘導する。したがって、IBN+ELD複合投与による海綿骨量と皮質骨量の増加は、IBNとELDによる破骨細胞分化の異なるフェーズへの作用に基づく骨吸収抑制とELDによる骨形成活性化の重畳によりもたらされたものと考察される。

 中野研究室ではこれまでに、エストロゲン欠乏性骨粗鬆症(Ozasa R et al., Calcif. Tissue Int. 2019, Ishimoto, Calcif. Tissue Int. 2022)、Ca欠乏による骨粗鬆症(Ozasa R et al., Calcif. Tissue Int. 2019)、尿毒症性骨粗鬆症(Iwasaki Y et al., Bone 2015, Wakamatsu T et al., J. Bone Miner. Res. 2021)などの骨粗鬆症の発症要因に応じて、骨基質配向性が異なる表現型を示し、いずれも骨は脆弱化することを明らかにしている。本論文では骨粗鬆症薬による閉経後骨粗鬆症骨微細構造の健全化を実証し、この成果は骨の階層的微細構造を考慮した近未来の「骨質」医療革新につながることが期待される。

小笹 良輔
図1 IBN+ELD併用投与は、エストロゲン欠乏性骨粗鬆症による骨微細構造(骨梁構造異方性と骨基質配向性)の破綻と骨減少の抑制により、正常な骨力学機能を維持する。

小笹 良輔
図2 海綿骨構造の変化と骨粗鬆症薬による予防効果。(A)μ-CT像(上段:横断面、中断:矢状断、下段:冠状断)。(B)海綿骨構造の定量解析結果。各プロットは各測定値を表す。**: p < 0.01、*: p < 0.05。

小笹 良輔
図3 皮質骨の材質変化と骨粗鬆症薬による予防効果。(A)骨量と体積骨密度。(B)コラーゲン配向方向のカラーマッピングと分布図。(C)アパタイト配向性と(D)ヤング率の定量解析結果。**: p < 0.01、*: p < 0.05。

著者コメント

 エストロゲン欠乏性骨粗鬆症では、骨基質の異常な配向性上昇により、結果として骨の脆弱化をもたらします。こうした配向性異常の治癒のために材料工学の立場から貢献できる方策はないのか、模索を続けてまいりました。薬剤による配向性治療が実現すれば、未来の骨質医療を見据えた創薬・治療法の開発も夢ではありません。本論文は、骨質研究の権威である東京慈恵医大の斎藤充主任教授(写真右上)、骨粗鬆症薬のリーディングカンパニーである中外製薬株式会社の松本義弘様(写真右下)のご指導のもと実現しました。共同研究としてご指導とご鞭撻をいただいた皆様には、この場をお借りして厚く御礼を申し上げます。
 骨粗鬆症における骨脆弱化を根本的に予防・治療するためには、材料工学的視点からは、骨量・骨密度に加えて、各骨粗鬆症での骨基質配向性の表現型やその変化様式に即した創薬や投薬法の検討が必要になるものと考えております。本論文で得られた知見により、現在の骨密度・骨量医療から骨質医療への骨粗鬆症治療のブレイクスルーにつながることを期待しています。(大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻助教・小笹 良輔)