ゾレドロン酸投与マウスの抜歯処置により引き起こされる骨壊死は活性型ビタミンDアナログ,抗菌薬,非ステロイド性抗炎症薬の投与により抑制される
著者: | Tomoya Soma, Ryotaro Iwasaki, Yuiko Sato, Tami Kobayashi, Eri Ito, Tatsuaki Matsumoto, Atsushi Kimura, Kana Miyamoto, Morio Matsumoto, Masaya Nakamura, Mayu Morita, Seiji Asoda, Hiromasa Kawana, Taneaki Nakagawa, Takeshi Miyamoto |
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雑誌: | Sci Rep. 2022 Jan 7;12(1):19. doi: 10.1038/s41598-021-03966-6. |
- 骨吸収薬剤関連顎骨壊死
- 活性型ビタミンDアナログ
- 抜歯
論文サマリー
ビスフォスフォネートやデノスマブなどの強力な骨吸収抑制剤の投与に加えて抜歯などの侵襲的歯科治療を合わせて行うことで,抜歯部位の骨吸収薬剤関連顎骨壊死(以下:ONJ)を促進すると報告されているが,現在ONJの予防法は確立されていない。今回,われわれが確立した,ビスフォスフォネートであるゾレドロン酸の投与中に抜歯を行う事でONJが引き起こされるマウスモデルに活性型ビタミンDアナログ、抗菌薬、非ステロイド性抗炎症薬を投与することで、骨吸収薬剤関連顎骨壊死を予防できることを明らかにした。
ゾレドロン酸投与中のマウスに抜歯処置を行うことにより骨壊死が誘発されるが,活性型ビタミンDアナログである1,25(OH)2D3またはED71を投与することにより,ゾレドロン酸の継続投与下でも、骨壊死の発生を有意に抑制されたことを確認した(図1).そのことから,マウス下顎骨の切片でアポトーシスを検出するTUNELによる免疫染色を行ったところ,ゾレドロン酸投与と抜歯処置を行った群では骨細胞がTUNEL陽性になっていたのに対し,前出の処置に加えて1,25(OH)2D3またはED71の投与を行った群ではTUNEL陽性細胞が認められず,活性型ビタミンDアナログの投与は,抜歯処置とゾレドロン酸の投与による骨細胞のアポトーシスを有意に抑制した。
また,活性型ビタミンDアナログの投与は、感染症を模倣するためにlipopolysaccharideを投与したマウスの血清中の炎症性サイトカインレベルの上昇を有意に抑制した(図2)。
さらに、非ステロイド性抗炎症剤や抗菌薬の投与は、マウスモデルにおけるONJの発生を有意に抑制した.これらの結果は、活性型ビタミンDアナログ,非ステロイド性抗炎症薬や抗菌薬の投与が,ゾレドロン酸投与患者の抜歯によって引き起こされるONJの発生を予防することができる可能性が示唆された。
著者コメント
注射ビスフォスフォネート製剤使用患者における顎骨壊死の発現頻度は経口製剤投与患者より高いとされているが,一方,われわれ口腔外科医は,ビスフォスフォネート製剤が顎骨に与える影響をいまだ十分理解することができていない。
本研究では,活性型ビタミンDアナログや、抜歯後に日常診療で投与されておる非ステロイド性抗炎症薬や抗菌薬の投与が,ゾレドロン酸投与患者に抜歯等の侵襲的歯科処置を行うことによって引き起こされるONJの発症を予防する可能性が示唆された.今後、更なる実験を加えることで、将来的には口腔外科臨床への応用へとつなげていけるようにしたいと考えております。本研究にあたり、ご指導いただきました先生方に深く感謝申し上げます。(慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科学教室・相馬 智也)