日本骨代謝学会

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オステオサイトは振動流感受に応じたPGE2産生により骨芽細胞配列化を制御する

C-type natriuretic peptide facilitates autonomic Ca2+ entry in growth plate chondrocytes for stimulating bone growth
著者:Yuu Miyazaki, Atsuhiko Ichimura, Ryo Kitayama, Naoki Okamoto, Tomoki Yasue, Feng Liu, Takaaki Kawabe, Hiroki Nagatomo, Yohei Ueda, Ichiro Yamauchi, Takuro Hakata, Kazumasa Nakao, Sho Kakizawa, Miyuki Nishi, Yasuo Mori, Haruhiko Akiyama, Kazuwa Nakao, Hiroshi Takeshima
雑誌:eLife 2022 Mar 15;11:e71931. doi: 10.7554/eLife.71931
  • 細胞内Ca2+
  • C型ナトリウム利尿ペプチド
  • イオンチャネル

市村 敦彦・宮崎 侑
研究室にて 左から 宮崎, 市村

論文サマリー

 細胞内Ca2+は様々な生理機能調節に必須の役割を担う重要なシグナル分子です。我々は軟骨細胞における細胞内Ca2+動態やその制御機構が不明であったことに注目し、マウス胎児大腿骨の急性スライス試料内の軟骨細胞を直接Ca2+イメージングする手法を確立しました。本手法を用いることで、骨成長板の軟骨細胞内Ca2+の自発的変動という新たな現象を発見し、その主たる制御分子として2価陽イオン透過性TRPM7チャネルを同定しました (Science Signaling, 2019)。軟骨細胞特異的にTrpm7を欠損させたマウスは骨伸長が障害されたことから、生理的な骨の伸長機構において軟骨細胞内Ca2+シグナルが重要であることが示唆されました。

 そこで本研究では、強力な骨伸長促進作用を持つペプチドホルモンC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)に注目しました。CNPは受容体である膜型グアニル酸シクラーゼNPR2に作用し軟骨内骨化を制御しています。骨系統疾患治療への応用を目指した多くの研究が行われた結果、CNPアナログが2021年に軟骨無形成症に対する治療薬として欧米にて承認されました。軟骨無形成症は線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)3の恒常活性変異による分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)シグナルの過剰活性化に起因しているため、CNPは過剰なMAPKシグナルを抑制することで骨を伸ばすと考えられていました。しかし、CNPの骨伸長作用に寄与する細胞内シグナル経路の理解は不十分と考えられ、軟骨無形成症の薬物治療の観点からも正確な細胞内シグナル経路の解明が必要と思われました。今回我々は、CNPの作用に軟骨細胞内Ca2+シグナルが関与している可能性の検証を行いました。

 CNPを室温で1時間処置し軟骨細胞内Ca2+をイメージングしたところ、溶媒処置群と比較して有意かつ用量依存的な軟骨細胞内Ca2+自発変動の増強が観察されました。そこで、薬理学的及び遺伝学的実験を行いCNPによって活性化される細胞内Ca2+シグナル経路について検討しました。一連の実験から、CNPはNPR2を介したcGMP産生によりcGMP依存性タンパク質キナーゼ(PKG)を活性化し、大コンダクタンスCa2+依存性K+(BK)チャネルを賦活することで、軟骨細胞を過分極に誘導することが判明しました。さらに、TRPM7阻害薬によりCNPによる細胞内Ca2+変動増強効果がほぼ完全に阻害されたことから、CNPは過分極によりTRPM7を介したCa2+流入を増加させていることも確認されました。また、CNP処置した軟骨細胞において、Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII(CaMKII)が活性化していました。これらの解析から、CNPが活性化する軟骨細胞内Ca2+シグナル経路を同定しました。そこで、新たに同定したシグナル経路とCNPの骨伸長促進作用の関連について、中足骨培養系を用いた実験にて検証しました。その結果、CNPの骨伸長促進作用は軟骨細胞特異的Trpm7遺伝子欠損によって消失すること、BKチャネル活性化薬の処置により骨伸長が促進することが観察されました。以上の一連の解析から、CNPの骨伸長促進作用には、NPR2-PKG-BKチャネル-TRPM7チャネル-CaMKIIシグナル経路を介した軟骨細胞内Ca2+シグナルの賦活が必要であることが確認されました。今後、新たに同定されたシグナル経路に基づいたCNPアナログの作用増強や、BKチャネルをはじめとした関連分子の活性調節による骨の長さの制御手法開発が期待されます。

市村 敦彦・宮崎 侑
図1 マウス中足骨培養系を用いたCNPの骨伸長促進作用に対するTrpm7遺伝子発現の評価

市村 敦彦・宮崎 侑
図2 CNPが活性化する軟骨細胞内Ca2+シグナル経路の概略

著者コメント

 本研究は、先行研究を研究会にて発表した際に、遺伝子欠損マウスの表現型類似性からCNPとの関与の可能性を指摘して頂いたことをきっかけとして開始しました。CNPの効果が安定して観察できるCa2+イメージング条件を設定するのに苦心し当初の想定以上に時間がかかりましたが、ちょうど上市されたばかりのCNP薬の作用メカニズムに関する知見を報告できたことを嬉しく思っています。軟骨細胞内Ca2+を制御する分子機構はまだその一端が明らかになったところと考えており、さらなる研究によって骨系統疾患治療に資する知見を得るべく今後も努めます。本研究にあたりご指導頂きました多くの先生方ならびに協力してくれた研究室の学生諸氏に心より感謝申し上げます。(京都大学薬学研究科・生体分子認識学分野・市村 敦彦)
 本研究の遂行および学位取得にあたり、長い間辛抱強くお付き合いいただいた共著の先生方および生体分子認識学分野の皆さまにこの場を借りて深く感謝申し上げます。(京都大学薬学研究科・生体分子認識学分野・宮崎 侑)