骨粗鬆症とサルコペニアの発症を予測するメタボライトを同定する試み
著者: | Miyamoto K, Hirayama A, Sato Y, Ikeda S, Maruyama M, Soga T, Tomita M, Nakamura M, Matsumoto M, Yoshimura N, Miyamoto T. |
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雑誌: | Metabolites. 2021 Apr 28;11(5):278. |
- 骨粗鬆症
- サルコペニア
- 発症予測因子
論文サマリー&著者コメント
近年、高齢化がますます進行するにつけ、疾患が発症する前にその発症を予測し、疾患発症そのもの、あるいは重症化予防を目的とした介入につなげる動きが加速している。健康診断や人間ドックは言うに及ばずであるが、疾患特異的な様々な予測因子の同定や、それらを用いたAI診断なども現実のものとなりつつある。
そのような時代背景の中、運動器疾患を扱う整形外科領域にあって、最も高齢化と直結する運動器疾患としては骨粗鬆症とサルコペニアが挙げられる。いずれも加齢に伴い罹病率や患者数が増加する加齢性疾患であり、骨量の減少や筋量・筋力の低下など、退行性疾患でもあるという共通点がある。このことから、当然ではあるが骨粗鬆症とサルコペニアの両方を発症する高齢者も少ない。一方で、そのいずれかのみを発症するものもあり、両者の疾患発症を予測するツールがあるのかは明らかではなかった。我々は東京大学22世紀医療センターの吉村典子先生ならびに慶應義塾大学先端生命科学研究所の平山明由先生らとの共同研究により、吉村先生らが立ち上げられた運動器疾患コホートであるROAD (Research on Osteoarthritis/osteoporosis Against Disability)スタディに参加された者のうち、血清の保存検体を採取している2nd visitと、その4年後のフォローアップ調査の3rd visitの両方に参加している729例を対象に、2ndから3rdの間で新規に骨粗鬆症を発症したものと、発症しなかったものの間で、2nd visit時の血清サンプル中の代謝産物(メタボライト)を網羅的にメタボロームという方法で計測し、4年後の骨粗鬆症発症を予測するメタボライトの同定を試みた。その結果、アミノ酸の1つであるグリシンの上昇が骨粗鬆症の新規発症と有意に相関し、年齢やBMI、性別などで調整しても有意性が維持されたことから、骨粗鬆症の疾患発症を予測するバイオマーカーの1つであると考えられた。グリシンはコラーゲンに最も多く含まれるアミノ酸であり、すでに臨床上骨吸収マーカーとして使用されているNTxやDPDのようにコラーゲン分解を反映したものと考えられた。サルコペニアについても同様の解析を行い、アミノ酸様のメタボライトであるタウリンの低下が、年齢とBMI、性別で調整しても4年後の疾患発症と有意に相関することを見出した。タウリンは主に肝臓で産生され、以前よりその投与により筋力増強効果などに関する報告がなされていた。今回の結果はバイオマーカーによる疾患発症予測の1つの可能性を示したに過ぎないが、骨粗鬆症については既存の骨代謝マーカーや骨密度、FRAX®️、サルコペニアは筋力や筋量、歩行速度などと合わせて予測ツールを作成することで、より精度の高い、またより長期の未来予測に使えるツール作成が可能になればと考えている。また、共通性の多い両疾患ではあるが、共通の疾患発症予測マーカーがなかったことは、両疾患は互いに関連しつつも、疾患発症そのものは独立のプロセスで進行する可能性も検討する必要性が示されたと考えている。(熊本大学整形外科・宮本 健史)