日本骨代謝学会

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オステオサイトは振動流感受に応じたPGE2産生により骨芽細胞配列化を制御する

Control of osteoblast arrangement by osteocyte mechanoresponse through prostaglandin E2 signaling under oscillatory fluid flow stimuli
著者:Tadaaki Matsuzaka, Aira Matsugaki, Takayoshi Nakano
雑誌:Biomaterials 2021 Oct. 21, 279, 121203; 1-10. DOI: 10.1016/j.biomaterials.2021.121203
  • 骨基質配向性
  • オステオサイト
  • 流体刺激

松坂 匡晃

論文サマリー

 本論文は、骨の材料学的強度を支配する骨配向性(コラーゲン線維とアパタイト結晶の配列)を決定する因子のひとつがPGE2(プロスタグランジンE2)であることを初めて明らかにした。PGE2は炎症や発熱に関わる代表的な生理活性脂質であるが、配向化により骨を強化するPGE2の新たな機能を解明した。

 骨は応力環境下において荷重方向に優先配向性を構築し、負荷に耐えうる強度を獲得している。骨配向性は骨密度とともに骨の強度に寄与し、無重力環境や長期臥床などの力が負荷されない状態では、骨の異常劣化をもたらす。応力による骨配向化には、骨の応力センサー細胞としてのオステオサイトの関与が予想され、実際、骨配向性はオステオサイトのlacuno-canalicular systemの異方性と相関する(Ishimoto, Nakano et al. Calcified Tissue International, 2021)。今回、応力刺激負荷と異方性培養を組み合わせた独自の骨模倣培養システムを構築(図1A)し、これを駆使した実証実験により、オステオサイトによる応力感受が骨配向化をもたらす分子機序を解明した。

 骨芽細胞配列は骨配向性の決定因子のひとつであり、骨芽細胞伸展方向に沿ったコラーゲン/アパタイト配向化は細胞配列度に相関して変化する。異なる骨系細胞共存下での異方性配列化培養は、応力をはじめとする外場刺激を起点とした細胞間情報伝達による骨配向化を反映した究極の骨模倣システムといえる。本システムを用いて静的・動的荷重を模したオステオサイトへの応力負荷により、骨は応力場に応じた興味深い配向化を示すことが見出された。オステオサイトへの一定流速の流体刺激負荷は骨芽細胞配列に影響を与えない一方で、流速変化を有する振動流刺激は、骨芽細胞の高配列化を導いた(図1B, C)。これは、オステオサイトが運動強度に対応する骨細管内の流体加速度を感受することで、骨芽細胞への指令伝達により骨配向化を亢進することを意味している。加えて、次世代シーケンシングによる遺伝子網羅解析により、振動流刺激が骨の異方性を決定する分子PGE2の同定に至った(図1D)。

 本研究で見出したPGE2を起点とした骨配向化機序(図2)は、配向性(同時に骨強度)が大きく劣化してしまう異常状態の骨(例えば、骨折等の際の再生骨、骨粗鬆症・大理石骨症などの疾患骨、寝たきり等による免荷骨)の配向性の向上や維持を可能とする革新的な新規骨治療法の創出、医療デバイス開発につながることが期待される。

松坂 匡晃
図1 (A) 応力刺激負荷と異方性培養を組み合わせた骨模倣培養システムの構築。(B, C) オステオサイトへの流体刺激に応じた骨芽細胞配列化。(D) 流体刺激に応答したオステオサイトの遺伝子発現変化。

松坂 匡晃
図2 オステオサイトは振動流刺激を感受し、PGE2を介して骨芽細胞配列を制御することで骨配向性を構築する。

著者コメント

 材料工学から骨の謎を紐解く骨配向性研究に魅了され、中野研究室の門を叩きました。本論文は筆者(写真中央)が工学部4年生として初めて取り組んだ研究テーマであり、その成果が掲載されたことを大変嬉しく思います。骨研究の長きにわたり最重要テーマである「応力と骨強度」を材料工学の観点から読み解くことで、骨治療の新しい標的分子の可能性も見出すことができました。これもひとえに、中野貴由教授(写真左)、松垣あいら准教授(写真右)をはじめ研究室の皆様の熱心なご指導・ご協力を賜りましたお陰であり、厚く御礼申し上げます。
 筆者は本年4月より大学院工学研究科博士後期課程に進学致します。博士の学位所得を目指しつつ、工学の立場から骨医学の発展に貢献できるよう日々精進していく所存です。(大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻・松坂 匡晃)