日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 吉田 豪太

オートファジーにより骨粗鬆症が抑制される

Degradation of the NOTCH intracellular domain by elevated autophagy in osteoblasts promotes osteoblast differentiation and alleviates osteoporosis.
著者:Gota Yoshida, Tsuyoshi Kawabata, Hyota Takamatsu, Shotaro Saita, Shuhei Nakamura, Keizo Nishikawa, Mari Fujiwara, Yusuke Enokidani, Tadashi Yamamuro, Keisuke Tabata, Maho Hamasaki, Masaru Ishii, Atsushi Kumanogoh, Tamotsu Yoshimori
雑誌:Autophagy. 2022 Jan 13:1-10.
  • Rubicon
  • 骨芽細胞
  • NICD

吉田 豪太
著者 左
吉森先生 右

論文サマリー

 現在、多くの骨粗鬆症治療薬がありますが、そのほとんどが破骨細胞を抑制する薬剤であり、骨芽細胞をターゲットとする薬剤は、副甲状腺ホルモン製剤のみが知られていました。つまり、骨形成促進作用をもつ薬剤選択が限られており、更に副甲状腺ホルモン製剤は使用期間が限定されているという課題がありました。また、オートファジーによって骨芽細胞の機能が活性化するということはこれまでの研究で分かっていましたが、どのようなメカニズムで活性化するのか不明でした。吉森教授らの研究グループでは、オートファジー抑制タンパク質Rubiconを欠損させることによってオートファジー亢進マウスを作成することに成功しており、これらのマウスを使って今回、骨芽細胞特異的なRubicon欠損マウスを作成しました。この骨芽細胞特異的オートファジー亢進マウスは、海面骨において増骨性の変化を示し、さらに雌マウスの卵巣を摘出することによって誘導される骨粗鬆症モデルにおいて、その骨粗鬆症の発症を抑制していることが分かりました。これまで、NOTCH経路が骨芽細胞分化に抑制性に機能していると報告されてきましたが、このオートファジーが亢進した骨芽細胞ではNOTCHシグナル下流のNICDの分解が促進していることが分かりました。そのため、NICDが減少することでその下流に位置する増骨性の転写因子(Runx2,Osterix)が増加しており、骨芽細胞の分化が亢進しているということが判明しました。本研究成果により、新規の骨芽細胞をターゲットとした創薬の可能性が期待されます。例えば、Rubiconの阻害剤の開発が進めば、オートファジーを促進することができるため、その薬剤の骨芽細胞への特異的送達により骨芽細胞のみオートファジーを促進する治療法開発の可能性が考えられています。社会の高齢化に従って骨粗鬆症の患者が増加し、骨折による長期臥床が原因で寝たきりになる患者が増えています。我が国のみならず世界的にも高齢化社会が進行し同様の問題を抱える国が多いという現状があります。その中で、増骨性の新規薬剤が創られれば、広く必要とされる薬剤となる可能性が高いと思われます。

吉田 豪太
図 骨芽細胞特異的Rubicon欠損マウスでは骨粗鬆症モデルマウスの海面骨が改善
骨芽細胞特異的Rubicon欠損マウスに骨粗鬆症を誘導しても、野生型シャムマウス程度まで海面骨が改善した。

吉田 豪太
図 Rubicon欠損骨芽細胞が分化亢進するメカニズム
Rubicon欠損骨芽細胞ではNICDの分解が亢進し、 NOTCH下流に位置する増骨性の転写因子(Runx2,Osterix)が増加する。これにより骨芽細胞の分化が促進されている。
*Hey1,HeyL; NOTCH下流の転写因子
*Runx2,Osterix; 増骨性の転写因子でHey1,HeyLによって抑制性に制御されている

著者コメント

 大隅先生がオートファジーの基礎研究により2016年にノーベル生理学医学賞を受賞しました。大隅先生の研究が吉森先生へと受け継がれ、その内容がより社会へと還元される形へと昇華され、オートファジーの医学的応用が現実味を帯びてきました。日本では骨粗鬆症は多くの人が罹患する疾患であり、その一般的な疾患においてオートファジーが有効に機能する可能性を示唆し、今後の医学応用への糸口となる研究をすることができました。大隅先生から始まる、この大きな研究の流れにおいて吉森研の一員として関われたことは非常に有意義であり、貴重な仕事をさせてもらったことをこの場を借りて感謝を申し上げます。(大阪大学大学院医学系研究科遺伝学・吉田 豪太)