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関節リウマチは骨質指標としてのコラーゲン/アパタイト配向性の劣化により骨強度を低下させる

Bone fragility via degradation of bone quality featured by collagen/apatite micro-arrangement in human rheumatic arthritis.
著者:Ozasa R, Matsugaki A, Ishimoto T, Kamura S, Yoshida H, Magi M, Matsumoto Y, Sakuraba K, Fujimura K, Miyahara H, Nakano T.
雑誌:Bone. 2021 Nov 23;155:116261. doi: 10.1016/j.bone.2021.116261.
  • RA
  • コラーゲン/アパタイト配向性
  • 骨質

小笹 良輔
上段: 小笹良輔(著者)、松垣あいら 先生、石本卓也 先生、中野貴由 先生 (大阪大学大学院工学研究科)
中段: 嘉村聡志 先生、櫻庭康司 先生、藤村謙次郎 先生、宮原寿明 先生 (九州医療センター)
下段: 吉田広人 様、間木麻友 様、松本義弘 様 (中外製薬株式会社)

論文サマリー

 本論文では、関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis: RA)における膝関節骨の強度低下の要因が、骨質指標の一つと考えられている骨コラーゲン/アパタイト配向性(コラーゲン線維とアパタイト結晶の優先配向方向とその配列度合い: 骨基質配向性)の劣化にあることを初めて明らかにした。

 骨のマクロ形状や骨密度、骨基質配向性の変化は応力に敏感である。そこで全身性の自己免疫疾患としてのRAの影響を負荷応力とは独立に解明するため、解析対象部位は負荷応力による影響の小さい脛骨近位端の顆間隆起部(図1(a, b)☆部)とした。RA患者さんの骨では、Control群と比較して有意に力学特性が低下し(図1(c-f))、形状(骨厚; 図1(g))の効果を規格化して求めた材質特性はControl群に対して50%以下の低値を示した(図1(h))。

 こうした材質特性の変化は、骨のナノ構造の変化によって生じる。図2(a, b)に示すように、Control群では骨関節面に沿ってコラーゲン/アパタイトが優先配向化しているが、RA患者さんの骨では骨基質配向性が失われて等方化している。統計学的解析の結果、この骨基質配向性の劣化が、骨強度低下をもたらす主要な要因であることが明らかになった。

 我々のグループは、これまでに変形性関節症(Osteoarthritis: OA)(Lee J‑W et al., J. Bone Miner. Metab. 2017)、骨粗鬆症(Ozasa R et al., Calcif. Tissue Int. 2019)、大理石骨症(Ishimoto T et al., Bone 2017)などの複数の骨疾患や再生骨(Nakano T et al., Bone 2012; Ishimoto T et al., J. Bone Miner. Res. 2013)にて骨基質配向性の異常を見出し、力学特性をはじめとする骨機能劣化の原因となっていることを示してきた。すなわち、局所的な力学的刺激に基づく骨疾患、全身性の代謝性疾患や自己免疫疾患といった種々の骨異常において、骨基質配向性が骨機能の重要な診断・判定指標になる。加えて、軟骨破壊により下骨の露出がみられる脛骨外顆関節面は、OA患者さんの軟骨下骨と同様の骨表現型を示し、皮質骨の肥厚化により関節面垂直方向への骨強度が異常に上昇することが理解された。

 RA患者さんの骨は、骨基質配向性の低下とともに、オステオサイトの配列化・形状異常を示した(図2(c))。骨基質配向とオステオサイト配列の同時破綻は、骨粗鬆症やがん転移骨(Sekita A. et al., J. Struct. Biol. 2016, Bone 2017)などの骨疾患でも認められており、オステオサイトが骨基質配向性制御を担う重要な骨系細胞であることが示唆される(Ishimoto T et al., Calcif. Tissue Int. 2021)。こうしたオステオサイト配列の破綻は、炎症性サイトカインによる細胞挙動の変化と密接に関係しているものと考察される。実際に、我々のグループはin vitroの細胞配列化培養モデルにおいて、配向化骨基質産生に必須の骨芽細胞配列が炎症性サイトカインの一種であるInterleukin-6(IL-6)の作用により低下することを見出している(Matsugaki A. et al., Int. J. Mol. Sci. 2020)。つまり、RAではIL-6に代表される炎症性サイトカインが、オステオサイト機能の異常化を介してコラーゲン/アパタイトからなる骨基質配向性を低下させたことが示唆される。

 RAは炎症にともなって骨破壊・変形が誘導される自己免疫疾患の一つである。一般に、骨破壊が生じる要因は骨吸収にあるとみなされており、これまで骨量・骨密度を指標とした病態の理解や診断、治療が中心に行われてきた。本論文は、RAによる骨の脆弱化が、従来の診断指標である骨量・骨密度の減少だけではなく、骨基質配向性の破綻(図3)によりもたらされることを解明した。本論文により得られた知見は、RAにおける新たな予防・診断法の提案や治療薬の薬効機序解明につながることが期待される。

小笹 良輔
図1 関節リウマチ(RA)による脛骨近位端における材質特性の劣化に基づく骨強度の低下。(a)Controlと(b)RA患者さんの脛骨近位端の外観。(c)荷重-変位曲線。(d)最大荷重。(e)剛性。(f)破壊エネルギー。(g)軟骨下骨の厚さ。(h)最大応力(材質特性)。**: p <0.01。

小笹 良輔
図2 健常骨にて骨表面に対し平行方向に優先配向していた骨コラーゲン/アパタイトは、RAにより配向性を顕著に低下する。同時に、RAはオステオサイトの配列や形状の異常をもたらす。(a)アパタイト結晶の2次元配向分布を表すレーダー図。(b)コラーゲン配向方向のカラーマッピングと(c)コラーゲン配向性の定量解析結果。(d)オステオサイト配列と形状の観察像。**: p <0.01。

小笹 良輔
図3 RAによる骨基質配向性の破綻に基づく骨脆弱化を示した模式図。

著者コメント

 本研究は、材料工学を専門とする大阪大学(著者(小笹)・松垣先生・石本先生・中野先生)、RAの病態や臨床経験が豊富な九州医療センター(嘉村先生・櫻庭先生・藤村先生・宮原先生)、RA創薬を先導する中外製薬株式会社(吉田様・間木様・松本様)、からなる異分野研究チームのコラボレーションによってはじめて実現しました。本研究は、「RA患者さんの膝関節の骨は軟らかい」という臨床現場から頂いた声に端を発し、共同研究の先生方によるご指導とご鞭撻のもと、筆者らが得意とする材料工学的手法により、RAによる骨強度低下の定量的な理解と、RAでの骨強度低下をもたらす重要な因子が骨質指標としての骨基質配向性の劣化によるものであることを解明できました。医歯薬工からの多面的な研究アプローチが、複雑な機序をもつ臓器としての骨研究の深化に今後ますます貢献することを期待しています。(大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻・小笹 良輔)