日本骨代謝学会

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破骨前駆細胞が発現するアドレノメジュリン受容体を介する破骨細胞形成制御:非対称分裂による分化開始

Modulation of osteoclastogenesis through adrenomedullin receptors on osteoclast precursors: initiation of differentiation by asymmetric cell division.
著者:Toshio Kukita, Hidenobu Hiura, Jiong-Yan Gu, Jing-Qi Zhang, Yukari Kyumoto-Nakamura, Norihisa Uehara, Sara Murata, Soichiro Sonoda, Takayoshi Yamaza, Ichiro Takahashi, Akiko Kukita
雑誌:Lab Invest. 2021 Oct 5. doi: 10.1038/s41374-021-00633-2.
  • 破骨細胞
  • 血管
  • カルシトニン

久木田 敏夫

論文サマリー

 近年、長管骨骨幹端に配置される血管が特定の血管内皮サブポピュレーションから構成されており骨芽細胞前駆細胞である造骨プロジェニターの形成に携わることが分かってきた。発生学的には胎生期の大動脈の血管内皮細胞から造血幹細胞が形成されることが分かっているので、造血幹細胞に由来する破骨細胞は血管とも関係が深いのであるが、血管そのものと破骨細胞の相互作用については不明の点が多い。本論文では複数の骨梁の間を走行する血管に近接して破骨細胞が存在することと、造骨プロジェニターの形成に関わる血管内皮細胞より構成される血管が破骨細胞と骨梁の間に密接して存在することを報告した(図1)。ところで血管拡張作用(血圧調節作用)を有するアドレノメジュリン(ADM)はカルシトニンファミリーに属する因子であるが、ADM受容体を介して血管内皮細胞に作用し局所的血管拡張因子の産生を介して血管周囲平滑筋を弛緩させることにより血圧を降下させる。ADMが血管平滑筋に直接的に作用することも分かっている。最近、ADMは敗血症の新しい治療薬としても注目されており、敗血症を悪化させる「血管内皮バリアの崩壊」を修復することが知られている。本研究では破骨細胞系列の細胞が機能的ADM受容体を発現することを明らかにした。ところで、カルシトニンは破骨細胞の骨吸収と分化を抑制する。我々は以前の研究で、ラット破骨細胞が特異的に発現する細胞膜表面分子Kat1抗原を見出しており、Kat1抗原がカルシトニン受容体の親和性を制御する膜表面分子であることを報告した(J.Immunol.1994)。破骨細胞分化に関しては抗Kat1抗原モノクローナル抗体(mAbKat1)がカルシトニン存在下でのみ破骨細胞形成を促進することを見出している(J.Endocrinol. 2001)。今回、Kat1抗原のナチュラルリガンドを探す目的で破骨細胞分化に関してmAbKat1と同様の活性を有するサイトカイン等を探したところ、ADMがmAbKat1と同様の作用、即ちカルシトニン存在下での破骨細胞形成促進能を有することを見出した。ADMのカルシトニン存在下での破骨細胞形成促進効果がmAbKat1の添加により消失したことと、破骨細胞及び前駆細胞が発現するADM受容体への125I標識ADMの結合がmAbKat1により阻害されたことより、破骨細胞系列の細胞での機能的ADM受容体の構成要素としてKat1抗原が機能している可能性が強く示唆された。興味深いことに未分化の造血プロジェクターから非対称分裂(asymmetric cell division)による破骨前駆細胞の出現(分化)に伴ってADM受容体の発現が始まることが分かった(図2)。単核前駆細胞ではADM受容体の高発現が維持された(図2)。Kat1抗原が単核の破骨前駆細胞と多核の破骨細胞で高発現されるのに対してADM受容体の発現は多核化すると顕著に低下した。Receptor activity-modifying protein-2 (RAMP2)或いはRAMP3という膜表面分子がカルシトニン受容体様レセプター(CRLR)と膜表面でヘテロダイマーRAMP2/CRLR或いはRAMP3/CRLRを形成することにより機能的ADMRとして作用することが知られている。破骨細胞系列の細胞ではCRLRとRAMP1のmRNAは検出されたが、RAMP2及びRAMP3のmRNAは検出されなかった。破骨細胞系列の細胞においてはKat1抗原がRAMP2やRAMP3の代用分子としてADM受容体として機能している可能性が強く示唆された。多核の破骨細胞に於いてKat1抗原はカルシトニン受容体と相互作用することにより親和性の調節を行っているのに対し、単核の破骨前駆細胞においてはKat1抗原は優先的にCRLRと複合体を形成しADM受容体として機能していることが示唆された(図3)。

久木田 敏夫

久木田 敏夫

著者コメント

 カルシトニンが骨吸収抑制剤として脚光を浴びていた時代(1985年頃~1995年頃)があります。当時、破骨細胞が特異的にカルシトニン受容体を高発現することからカルシトニン製剤が最も有力な骨吸収制御薬として注目されていたのですが、カルシトニンの骨吸収抑制効果が長続きしない、いわゆる「カルシトニンエスケープ現象」という現象に当時の研究者達は悩まされていました。本研究はこの現象の解明にも深く関連する研究です。ADM結合実験等かなり以前に出して眠っていたデータに新知見を付けることで新しい論文にすることができました。共焦点レーザのデータを出して頂いた大学院生の日浦秀暢君に感謝します。色々とご協力ご助言頂きました共同研究者の皆様方に心から感謝致します。血管を調節する因子であるADMの受容体を破骨前駆細胞が発現しており、破骨細胞の形成制御にADMが関与する、ということを示した本論文はユニークな報告であるということで米国・カナダ病理学会誌Laboratory Investigation の2021年11月号の表紙を飾ることとなり大変幸運でした(図1)。(九州大学大学院歯学研究院分子口腔解剖学分野・久木田 敏夫)