日本骨代謝学会

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DCIRとそのリガンドであるアシアロ二本鎖N型糖鎖は樹状細胞機能と破骨細胞形成を制御する

DCIR and its ligand asialo-biantennary N-Glycan regulate DC function and osteoclastogenesis.
著者:Kaifu T*, Yabe R*, Maruhashi T*, Chung S-H*, Tateno H, Fujikado N, Hirabayashi J, Iwakura Y (*equal contributor).
雑誌:J. Exp. Med.,2021;218(12):e20210435. Doi:10.1084/iem.20210435.Epub 2021 Nov 24
  • DCIR
  • アシアロ二本鎖N型糖鎖
  • ノイラミニダーゼ

海部 知則
著者(左)、上段左から鄭琇絢さん、岩倉洋一郎教授。下段左から矢部力朗君、丸橋拓海君。鄭琇絢さんは面倒見の良いハードワーカーで、韓国語、日本語、英語を操る才媛。矢部力朗君は温厚な糖鎖専門家で、リガンド同定を担当。丸橋拓海君は高い実験スキルと頭脳を持った若手のホープで、同性同名のモデルと同じくどこに行っても人気者。

論文サマリー

 DCIR(Dendritic Cell ImmunoReceptor)は細胞外に糖鎖認識ドメインCRDと細胞内に抑制性シグナルモチーフITIMを持つ抑制性C型レクチン受容体で、ミエロイド系細胞に発現している。Dcir−/-マウスは加齢に従い自己免疫性の関節付着部炎を発症し(Fujikado et al, Nat. Med., 2008)、関節部位の異所性骨化には、T細胞が産生するIFN-γが重要な役割を果たしていることを見出している(Maruhashi et al., J.Immunol., 2015)。またDcir−/-マウスは実験的自己免疫性脳脊髄炎の臨床スコアが増悪化し(Seno et al., Exp. Anim., 2015)、DCIRは免疫系と骨代謝系を制御する受容体であることを報告してきた。受容体の機能発揮にはリガンドとの相互作用が重要であるが、DCIRの機能的リガンドは不明でありDCIRとリガンドの相互作用による免疫系および骨代謝系制御機構は明らかではなかった。

 本研究では高感度糖鎖アレイ法によりマウスDCIRがアシアロ二本鎖N型糖鎖(NA2)と結合することを発見した(図1a)。DCIRはCRDとCa2+依存的にNA2と結合した。またヒトDCIRもNA2に結合することを見出した。野生型の破骨細胞誘導系にNA2を添加すると破骨細胞形成が抑制され、Dcir−/-細胞では抑制効果が認められないことから、NA2はマウス及びヒトDCIR特異的に作用する機能的リガンドであることが示された(図1b, c)。生体内でのDCIRとNA2の相互作用の効果を調べるために、N型糖鎖末端に存在するシアル酸を切除することによりNA2を露出させる作用を持つノイラミニダーゼをDBA/1Jマウスに投与しコラーゲン誘導型関節炎を誘導すると、関節炎スコアと血中サイトカイン濃度が顕著に減少し、TRAP陽性細胞数が有意に減少した(図2a, b)。同様の実験をDcir−/-マウスに実施すると臨床スコアや破骨細胞数の変化は認められなかったことからノイラミニダーゼ投与の効果はDCIR特異的に作用することが示された。免疫系におけるDCIR-NA2の相互作用を調べるために、樹状細胞とT細胞の共培養系にNA2を添加すると樹状細胞の抗原提示能が低下しT細胞応答が減弱することが明らかとなった。これらのことからDCIR-NA2の相互作用は免疫系および骨代謝系を抑制的に制御することが示され、糖鎖末端の構造変化を認識することで過剰な細胞応答を抑制するという新しい仕組みが明らかとなった(図3)。

海部 知則

海部 知則

海部 知則

著者コメント

 DCIRは免疫系と骨代謝系を負に制御するユニークなC型レクチン受容体です。本研究ではDCIRを介した制御機構を包括的に理解するためにリガンドの同定に取り組みました。DCIRリガンド探索の成果は産業技術総合研究所の先生方との共同研究により得られました。異分野の先生方との共同作業は知的好奇心を掻き立てられ、新しいことを学ぶ機会に恵まれました。私の所属先移動により解析が遅れがちとなりましたが、共同責任著者である矢部力朗先生、丸橋拓海先生、鄭琇絢先生のご協力のおかげで発表することができました。またご指導していただいた岩倉洋一郎先生にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。(東北医科薬科大学医学部免疫学教室・海部 知則)