日本骨代謝学会

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高解像度Image-basedモデルを用いたテザリングエレメントによる骨細胞突起の局所膜ひずみ解析

High-resolution image-based simulation reveals membrane strain concentration on osteocyte processes caused by tethering elements.
著者:Yuka Yokoyama, Yoshitaka Kameo, Hiroshi Kamioka, Taiji Adachi
雑誌:Biomech Model Mechanobiol. 2021 Dec;20(6):2353-2360.
  • 骨細胞
  • メカノセンシング
  • テザリングエレメント

横山 優花

論文サマリー

 骨リモデリングの司令細胞として知られる骨細胞は、その細胞突起において骨細管内の間質液流れにともなう力学刺激を感知すると考えられている。この骨細胞のメカノセンシング機構においては、骨細胞突起と骨細管壁をつなぐテザリングエレメントと呼ばれる構造物が、間質液の流れを受けて骨細胞突起の膜ひずみを引き起こす可能性があると考えられている。また、超高圧電子顕微鏡を用いた観察により、骨細胞突起および骨細管壁の複雑な形状が明らかにされ、テザリングエレメントとともに骨細胞への力学刺激に大きな影響を及ぼすことが予想される。本研究では、そのような骨細胞周囲の微細構造が、骨細胞のメカノセンシング機構において果たす役割を明らかにすることを目的とした。

 まず、超高圧電子顕微鏡画像に基づき、骨細胞突起と骨細管壁の高解像度Image-basedモデルを構築した。骨細胞突起を超弾性体の膜で覆われた構造物としてモデル化し、有限要素法によりその変形を解析した。また、骨細管内の間質液の流れは、格子ボルツマン法を用いて解析した。さらに、テザリングエレメントを、骨細胞突起と骨細管壁をつなぐ線形ばねとしてモデル化し、骨細胞突起と骨細管壁の間隙にランダムに配置した。本モデルに対し、流体-構造連成解析を行うことにより、骨細管内の間質液流れにともなう骨細胞突起の膜ひずみ分布を評価した。

 解析の結果、骨細胞突起には、局所的に大きな膜ひずみが集中する領域が存在することが明らかとなった。また、そのような局所ひずみ集中は、大きな張力を生じているテザリングエレメントの周辺に発生していた。一方で、ひずみ集中に関連する張力の大きなテザリングエレメントはごく少数であった。それぞれのテザリングエレメントについて解析を進めたところ、テザリングエレメントに生じる張力は、流れのない状態におけるテザリングエレメントの傾きに関連していることが示唆された。すなわち、骨細胞突起表面において、間質液流れの上流方向に傾いて配置されたテザリングエレメントが、流れにともない大きな張力を生じ、骨細胞突起に局所的なひずみ集中を引き起こしていることが示唆された。

 本研究において明らかとなった骨細胞突起の局所に集中した膜ひずみは、周辺のイオンチャネルの構造を変化させ、骨細胞の力学応答を引き起こす可能性がある。したがって、本研究は、骨内部の微細構造が骨細胞メカノセンシング機構に及ぼす影響、および、骨細胞メカノセンシングの分子機構の理解に貢献することが期待される。

横山 優花
図1 高解像度Image-basedモデルにおける解析の結果、骨細胞突起表面において、骨細管内の間質液流れの上流方向に傾いて配置されたテザリングエレメントが、流れにともない大きな張力を生じ、骨細胞突起膜に局所的なひずみ集中を引き起こすことが示唆された。

著者コメント

 荷重支持などの力学的機能に対応した骨の形が、力学負荷に応答し変化するという骨リモデリングは、工学のバックグラウンドをもつ私にとって非常に興味深い研究対象です。本研究においても、細胞のはたらきを介した骨の力学を明らかにしたいと研究に取り組んできました。本論文は、私が学術誌に投稿した初めての論文です。想像以上に時間がかかってしまいましたが、根気強くご指導いただいた安達泰治先生、亀尾佳貴先生に、厚く御礼申し上げます。また、本研究の核となる骨細胞突起・骨細管の実形状データをご提供いただいた上岡寛先生、そして、研究室の皆様ほか、様々な場面でお力添えを賜りました皆様方に、心より感謝申し上げます。(京都大学大学院工学研究科マイクロエンジニアリング専攻バイオメカニクス研究室・横山 優花)