日本骨代謝学会

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グラム陽性細菌細胞壁由来リポタイコ酸によるPGE2産生を介した炎症性歯槽骨破壊の誘導作用

Gram-positive bacteria cell wall-derived lipoteichoic acid induces inflammatory alveolar bone loss through prostaglandin E production in osteoblasts.
著者:Tsukasa Tominari, Ayumi Sanada, Ryota Ichimaru, Chiho Matsumoto, Michiko Hirata, Yoshifumi Itoh, Yukihiro Numabe, Chisato Miyaura, Masaki Inada
雑誌:Sci Rep. 2021 Jun 25;11(1):13353
  • 歯周病
  • グラム陽性細菌
  • TLR

富成 司
著者近影
左から筆者、研究指導者の稲田全規先生と研究室にて撮影。

論文サマリー

 歯周疾患は細菌感染によって引き起こされる口腔局所の炎症性疾患で、歯牙の喪失を招くことで生活の質(QOL)を著しく低下させます。歯周疾患における歯槽骨破壊の主な原因として、歯肉縁下プラークに存在するグラム陰性細菌が産生するLPS (lipopolysaccharide) が主な原因とされていますが、歯肉縁上プラーク(好気環境下)に存在するグラム陽性細菌が産生するLipoteichoic acid (LTA)の詳細な関与は不明でした。これまで、筆者らは、LPSがTLR (toll-like receptor) 4を介したPG (prostaglandin) E2誘導性の歯槽骨破壊を誘導することを明らかにしています。一方、グラム陽性細菌の細胞壁構成成分であるLTAはTLR2のリガンドとして働くことが知られており、歯周疾患への関与が示唆されていましたが、歯槽骨破壊への関与は未だ不明でした。そこで、本研究では、LTAが炎症性歯槽骨破壊に与える影響について検討しました。

 最初に、マウス骨芽細胞および骨髄細胞の共存培養系を用いた検討を行ったところ、LTAは濃度依存的に破骨細胞の分化を誘導しました。さらに、マウス頭頂骨器官培養系においては、LTAによる濃度依存的な骨吸収活性の亢進が認められました。続いて、LTAの作用機序を明らかにするため、骨芽細胞培養系を用いた検討を行ったところ、LTAはRANKL (receptor activator of NF-κB ligand)、COX (cyclooxygenase)-2、mPGES (membrane-bound PGE synthase)-1のmRNA発現を亢進し、PGE2産生を促進しました。また、骨芽細胞において、LTAはIκBαタンパク質の分解を促し、NF-κB転写活性を亢進しました。一方、COX阻害剤であるインドメタシン処理によって、これらLTAの作用は抑制されました。次に、破骨細胞に対するLTAの直接作用を検討したところ、LTAは成熟破骨細胞の延命作用を示し、NFATc1およびカテプシンKのmRNA発現を亢進しました。最後に、ex vivoおよび in vivo 歯周疾患評価系を用いた検討を行いました。Ex vivoマウス歯槽骨器官培養系においてLTAは骨吸収活性を促進し、その作用はインドメタシンによって阻害されました。In vivo歯周疾患モデルマウスにおいて、歯周組織にLTAを作用させたところ、LTAによって歯槽骨の破壊と辺縁退縮が認められました(図1)。

 本研究において、LTAは骨芽細胞におけるPGE2を介したRANKL発現誘導および破骨細胞に対する直接的な延命作用によって、骨破壊を促進することがin vitro実験系により示され、さらに、in vivoモデルマウスの実験系において、LTAが歯槽骨破壊を促進することが示されました。これらより、グラム陽性細菌壁由来のLTAは歯周疾患におけるPGE2誘導性の歯槽骨破壊に直接的に関与する可能性が示されました(図2)。

富成 司
図1. LTAによる歯槽骨破壊の誘導
(左)第一臼歯と第二臼歯の歯間隙における歯槽骨の退縮距離(a)
(右)第一臼歯歯根間における歯槽骨の退縮距離(b)

富成 司
図2. LTAによる歯槽骨破壊の機序

著者コメント

 歯周疾患において、グラム陰性細菌由来のLPSは主な歯槽骨破壊の原因因子とされています。本研究では、グラム陽性細菌由来リポタイコ酸(LTA)のプロスタグランジン(PG)E2を介した炎症性骨吸収のメカニズムを検討しました。今後、これら知見が歯周疾患における歯槽骨破壊の予防・治療法の開発へとつながることを期待しております。
 本研究につきまして、ご指導をいただきました稲田全規先生をはじめ、東京農工大学大学院 生命工学専攻 稲田研究室の皆様、その他多くの関係者の皆様に心より感謝を申し上げます。(東京農工大学大学院生命工学専攻稲田研究室・富成 司)