日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 西川 恵三

生体内酸素環境に対する適応機構としてのエピジェネティック制御の重要性

Osteoclasts adapt to physioxia perturbation through DNA demethylation
著者:Keizo Nishikawa, Shigeto Seno, Toshitada Yoshihara, Ayako Narazaki, Yuki Sugiura, Reito Shimizu, Junichi Kikuta, Reiko Sakaguchi, Norio Suzuki, Norihiko Takeda, Hiroaki Semba, Masamichi Yamamoto, Daisuke Okuzaki, Daisuke Motooka, Yasuhiro Kobayashi, Makoto Suematsu, Haruhiko Koseki, Hideo Matsuda, Masayuki Yamamoto, Seiji Tobita, Yasuo Mori, Masaru Ishii
雑誌:EMBO Rep. 2021 Oct 18:e53035.
  • 破骨細胞
  • エピジェネティクス
  • 生体イメージング

西川 恵三
集合写真

論文サマリー

 骨吸収活性を介して骨の恒常性維持を担う破骨細胞には、酸素を利用する仕組みが備わっています。しかし、破骨細胞が存在する骨の内部は極度の低酸素に維持されていると従来から考えられています。果たして、破骨細胞にとって酸素は必要な分子なのでしょうか。酸素は生命にとって必要不可欠な気体で、生体内にあるすべての細胞は絶え間ない酸素供給のもとで正常な活動を営むことができます。この酸素供給が破綻した場合には、細胞は特別な分子機構を動かして、低酸素に対して抗おうとします。これは低酸素応答と呼ばれ、従来から精力的に研究が進められており、一昨年のノーベル生理学・医学賞の受賞対象であることも相まって、一見、低酸素応答機構がよく理解できてきたような錯覚に陥りがちです。しかしながら,「生体内の細胞がどのくらいの酸素濃度にさらされているか」の実に基本的な情報すらわかっていません。このため、生体内の正常な細胞が果たしてどのくらいの酸素濃度下で維持され機能しており,その適正な量の酸素が得られない場合には細胞にどのような変化を生じるかは未だ曖昧な現状にあると言えます。今回の論文では、酸素を見る化学プローブと骨組織をライブイメージングする2光子励起顕微鏡法を活用することで、生きたままのマウスの骨の内部に存在する破骨細胞がさらされている酸素濃度を計測することに成功しました。その結果、生体内の破骨細胞は17.4mmHg(2.3%)〜36.4mmHg(4.8%)の酸素濃度で維持されていることを見出しました。これは、骨組織内の酸素濃度の情報を1細胞レベルで取得することに成功した世界初の研究成果になります。この生理的な範囲内で酸素濃度が低下した場合において破骨細胞形成や骨組織が受ける影響を検討したところ、低酸素環境下では破骨細胞の形成が阻害され、骨量が増加することが分かりました。これにより、酸素は破骨細胞形成にとって必要な分子であることが明らかとなりました。次に、破骨細胞形成において酸素が必要とされる分子メカニズムを解析したところ、低酸素時に誘導されてくるHIFがかかわる制御システムは重要ではなく、代わりにメチル化DNAの酸化反応が関与することが分かりました。最後に、メチル化DNAの酸化反応を担う酵素Tetを欠損したマウスを解析したところ、破骨細胞がほとんど形成されず、骨量が顕著に増加することが分かりました。これにより、破骨細胞がDNAの脱メチル化機構を介して酸素を感知することで、骨が酸素に対して応答する新たな機構が明らかとなりました。

西川 恵三

西川 恵三

著者コメント

 本研究の遂行にあたって多大なお力添えをいただきました、大阪大学 石井優先生、京都大学 森泰生先生、群馬大学 飛田成史先生、吉原利忠先生に感謝申し上げます。(同志社大学大学院生命医科学研究科医生命システム専攻細胞代謝化学研究室・西川 恵三)