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RAF1-MEK/ERK 経路に依存するARL4C発現はエナメル上皮腫の細胞増殖と破骨細胞形成を促進する

RAF1-MEK/ERK pathway-dependent ARL4C expression promotes ameloblastoma cell proliferation and osteoclast formation.
著者:Shinsuke Fujii, Takuma Ishibashi, Megumi Kokura, Tatsufumi Fujimoto, Shinji Matsumoto, Satsuki Shidara, Kari J Kurppa, Judith Pape, Javier Caton, Peter R Morgan, Kristiina Heikinheimo, Akira Kikuchi, Eijiro Jimi, Tamotsu Kiyoshima
雑誌:J Pathol. 2021 Oct 8. doi: 10.1002/path.5814.
  • エナメル上皮腫
  • 破骨細胞
  • ARL4C

藤井 慎介
2021年11月九州大学大学院歯学研究院大学院特別講義後の写真

論文サマリー

 エナメル上皮腫は歯原性腫瘍の中で最も発生頻度が高く、100万人あたり約0.5人が新たに診断されています。エナメル上皮腫は歯原性上皮由来の良性腫瘍ですが、再発したり、しばしば広範に顎骨吸収を呈するため、臨床的にも重要な腫瘍として考えられています。しかし、その病因は不明でした。最近、エナメル上皮腫においてBRAF V600E変異に依存したMAPKシグナルが異常に活性化していることが報告されましたが、細胞増殖や顎骨吸収における機能は不明です。

 私共は、低分子量Gタンパク質であるARL4Cがエナメル上皮腫に高発現しており、その発現がエナメル上皮腫の腫瘍細胞増殖および破骨細胞形成を促進することを見出しました。

 ヒトエナメル上皮腫の病理組織標本において免疫染色を行ったところ、73%の症例においてARL4Cがエナメル上皮腫細胞特異的に染色されました。これまで、ARL4CはMAPKシグナルにより発現制御され、各種の癌において腫瘍形成を促進することが報告されています。そこで、BRAF V600E変異を有するエナメル上皮腫細胞株を用いた検討したところ、ARL4Cの発現は、主にRAF1-MAPKに依存していることを見出しました。この結果から、エナメル上皮腫において、BRAF V600E-MAPKシグナルだけでなく、RAF1-MAPK-ARL4Cシグナルが活性化していると考えられました。また、ARL4Cの発現はエナメル上皮腫の腫瘍細胞増殖に必要でした。次に、エナメル上皮腫細胞がARL4Cを発現している病理組織標本において、多数の破骨細胞が認められました。そこで、マウス骨芽細胞と骨髄細胞の初代培養にエナメル上皮腫細胞を共存培養したところ、エナメル上皮腫細胞におけるARL4Cの発現量に依存してTRAP染色陽性の破骨細胞様細胞が形成されました。加えて、この実験系において、mRANKLを介してTRAP陽性細胞が誘導されていました。以上の結果より、エナメル上皮腫におけるRAF1-MAPKシグナル依存性のARL4C発現はエナメル上皮腫の腫瘍細胞増殖と破骨細胞形成に必要であることが示唆されました。

著者コメント

 エナメル上皮腫は口腔特有の良性腫瘍ですが、臨床的には良性腫瘍の範疇をこえるような病態を呈することがあります。今回、エナメル上皮腫では、少なくとも2種類のシグナル伝達が活性化していることが明らかになりました。このことは、臨床の病態に関連するのではないかと考えています。筆頭著者は大阪大学医学系研究科分子病態生化学に在籍時よりARL4Cの機能解析を行っており、本研究は筆頭著者が九州大学大学院歯学研究院口腔病理学分野に異動後も継続して行った研究内容です。また、破骨細胞の解析は、九州大学大学院歯学研究院OBT研究センター・口腔細胞工学分野との共同研究の成果です。最後に、菊池教授・松本准教授、自見教授、ご指導いただきました清島教授および九州大学大学院歯学研究院口腔病理学分野の先生方に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。(九州大学大学院歯学研究院口腔病理学分野・藤井 慎介)