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XII型コラーゲンの不足はマウスの前十字靭帯損傷リスクを増加させる

Collagen XII Deficiency Increases the Risk of Anterior Cruciate Ligament Injury in Mice.
著者:Shin Fukusato, Masashi Nagao, Kei Fujihara, Taiju Yoneda, Kiyotaka Arai, Manuel Koch, Kazuo Kaneko, Muneaki Ishijima, Yayoi Izu
雑誌:J. Clin. Med. 2021, 10(18), 4051; https://doi.org/10.3390/jcm10184051
  • XII型コラーゲン
  • 前十字靭帯損傷
  • 腱・靭帯

伊豆 弥生

論文サマリー

 前十字靭帯(ACL)損傷はサッカーやバスケットボールなど方向転換が多いスポーツを行うアスリートで頻発する疾患です。外科的再建による治療法が推奨されていますが、損傷前の状態まで回復することは難しく、予防となるリスク因子の特定が求められています。これまでに、COL12A1遺伝子の一塩基変異と家族性ACL損傷の関連性が世界中で報告されていることから、XII型コラーゲンがACL機能に重要な役割を担う可能性が示唆されていました。そこで、本研究では、XII型コラーゲン欠損がACLに与える影響について、マウスモデルを用いて解析を行いました。

 XII型コラーゲン欠損マウスは歩行異常を示しており、フットプリント解析では、XII型コラーゲン欠損マウスの後肢は、野生型よりも外側方向に開いていていることが明らかとなりました。そこで、膝の組織学的解析を行なったところ、野生型のACLは大腿骨と脛骨を結ぶ連続した組織として認められたのに対し、数匹のXII型コラーゲン欠損マウスでは、ACLが断裂してみられました(図1)。一方、後十字靭帯は遺伝子型による違いはなく、どちらも連続した組織としてみられました。ACLの非連続性を定量解析したところ、5週齢の若い個体では、XII型コラーゲン欠損マウスの20%で、19週齢の成熟個体では、53%の個体でACLが損傷していることがわかりました。この時、野生型でACL断裂した個体は見られなかったことから、XII型コラーゲン欠損により、ACLが有意に断裂することが明らかになりました。XII型コラーゲンはACLに局在しており、ACLでのmRNAの発現レベルは加齢に伴い減少傾向を示すことが明らかとなりました。これまでの私たちの研究から、XII型コラーゲンが欠損することで、腱細胞間のコミュニケーションが障害され、腱に特徴的な階層構造や力学的強度が変化することがわかっております(Izu et al. Matrix Biol. 2020)。本研究により、新たに、ACLでのXII型コラーゲン発現量は加齢に伴い減弱する傾向が見られたことから、XII型コラーゲンの発現量がモニタできれば、ACL損傷のリスクを抑えられる可能性が示唆されました。今後、XII型コラーゲンとの結合分子や誘導分子を解析することで、臨床への応用を目指して行きたいと思います。

伊豆 弥生
図. 膝関節のHEおよびサフラニンO染色像
野生型コントロールでは、ACL(黒矢印)が大腿骨と脛骨を繋ぐ連続した組織として見れるのに対し、Col12a1-/-では、ACL(白矢印)は断裂していた。

著者コメント

 本研究は、Col12a1欠損マウスの膝関節の切片を観察していた時に、偶然、ACLが断裂していることを発見したのがきっかけでした。ACLが自然に断裂すること、また他の腱・靭帯は損傷しないということは驚きでした。本研究により、XII型コラーゲンのメカニカルストレスとの関連性も見えてきましたので、今後明らかにして行きたいと思います。本研究にあたり、協力してくれました岡山理科大学獣医学部、新井清隆先生、学部生(藤原渓、米田大珠)並びに順天堂大学の福里晋先生、長尾雅史先生、整形外科学教室の先生方に感謝致します。(岡山理科大学獣医学部獣医動物実験学・伊豆 弥生)