日本骨代謝学会

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microRNA-455-5pおよび-3pはHIF2αの発現を抑制し、協調的に軟骨恒常性を制御する

Both microRNA-455-5p and -3p repress hypoxia-inducible factor-2alpha expression and coordinately regulate cartilage homeostasis.
著者:Yoshiaki Ito, Tokio Matsuzaki, Fumiaki Ayabe, Sho Mokuda, Ryota Kurimoto, Takahide Matsushima, Yusuke Tabata, Maiko Inotsume, Hiroki Tsutsumi, Lin Liu, Masahiro Shinohara, Yoko Tanaka, Ryo Nakamichi, Keiichiro Nishida, Martin K Lotz, Hiroshi Asahara
雑誌:Nat Commun. 2021 Jul 6;12(1):4148.
  • マイクロRNA
  • 変形性関節症
  • 核酸治療

伊藤 義晃

論文サマリー

 変形性関節症(Osteoarthritis; OA)は、軟骨細胞外マトリックスの合成と分解のバランスが崩れ、軟骨の恒常性が保てなくなることで引き起こされる。軟骨組織の破壊により、患者は激痛を被り、日常生活における運動機能を著しく低下させる。我々は、OAや軟骨恒常性維持にも重要な役割を持つことが明らかになりつつあるmicroRNA (miRNA)に着目し、軟骨特異的なmiRNAの探索とその機能について解析し、OAの病態解明並びに新たな治療法開発の足がかりとなる軟骨恒常性維持の分子メカニズムについて解明することを目的とした。

 軟骨の形成や恒常性維持に重要な役割を持つ転写因子であるSox9により発現が誘導されるmiRNAについて、Sox9を過剰発現した軟骨細胞を用いて探索を行った結果、軟骨で特異性の高い発現を示すmiRNAとしてmiR-455を同定した。miR-455は-5pと-3pの両鎖が同程度発現するmiRNAで、OA軟骨においてmiR-455-5pおよび-3pの発現が減少していた。次にmiR-455ノックアウトマウスを作製・解析したところ、6ヶ月齢のノックアウトマウスは野生型と比べて軟骨の変性が進行し、OA様の表現型を示すことがわかり、miR-455は軟骨の恒常性維持に重要なmiRNAであることが明らかになった。miR-455の軟骨恒常性維持における分子メカニズムを明らかにするために、miR-455の標的遺伝子のスクリーニングを行ったところ、軟骨基質を分解する酵素などの遺伝子の発現を促進し、OAにおいては悪玉として働くと考えられているHIF-2αの発現をmiR-455-5pと-3pの両者が直接抑制していることがわかった。さらにmiR-455の関節炎治療効果を調べるために、マウスOAモデルの膝関節腔内にmiR-455を投与する実験を行ったところ、miR-455-5pと-3p両方を投与した群で軟骨の変性が抑えられていることがわかった。本研究成果から、Sox9により発現誘導されるmiR-455-5pと-3pは協調的にHIF-2αを抑制し、軟骨恒常性維持に重要な役割を担っていることが明らかになった(図1)。本研究成果は、両鎖が同じ遺伝子を標的にして組織ホメオスタシスを制御する新たなモデルを提唱するものであり、またOAの病態解明やmiRNAを用いた核酸治療など新たな治療法の開発に寄与する可能性が期待される。

伊藤 義晃
図1 miR-455による軟骨恒常性制御機構

著者コメント

 本研究は、miR-455の軟骨恒常性維持の制御機構および関節炎治療効果について検討したものです。変形性関節症モデルでのmiR-455導入実験など、私一人では到底手に負えない仕事も多々ありましたが、スクリプス研究所の松崎先生や茂久田先生、浅原先生をはじめとする研究室のメンバーなど、皆様のご協力のおかげで無事論文化することができました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。(東京医科歯科大学リサーチコアセンター・伊藤 義晃)