日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 楊 静文・三品 裕司

BMPシグナルはオートファジーを抑制し、ベータカテニンの分解を抑えることを通して、頭部神経堤細胞の軟骨細胞への分化決定を促す

Augmented BMP signaling commits cranial neural crest cells to a chondrogenic fate by suppressing autophagic β-catenin degradation Sci
著者:Jingwen Yang, Megumi Kitami, Haichun Pan, Masako Toda Nakamura, Honghao Zhang, Fei Liu, Lingxin Zhu, Yoshihiro Komatsu, Yuji Mishina
雑誌:Signal 2021 Jan 12;14(665):eaaz9368
  • BMPシグナル
  • 異所性軟骨
  • オートファジー

楊 静文・三品 裕司
ラボメンバーの写真。ボスの指令(BMP)を受けて異所性軟骨が発生するまでの経路。わたし(筆頭著者)はシグナルカスケードの中心で一番重要な役割(オートファジー)を担っている。

論文サマリー

 頭蓋顔面部は軟骨、骨、神経、結合組織から形成される。これら組織の大部分は頭部神経堤細胞から分化してくる。発生過程で頭部神経堤細胞は鰓弓に遊走し、そこからいろいろな系譜へと分化していく。しかし、そこでの細胞系譜決定機構は十分に理解されていない。我々は今回、BMPシグナルがオートファジーを抑制することによって頭部神経堤細胞を軟骨方向へ分化させることを見出した。

 構成的活性型BMP受容体ACVR1を神経堤細胞特異的に発現させたトランスジェニックマウスの解析から、BMPシグナルの上昇によって頭部神経堤細胞の細胞系譜決定に異常が起き、頭蓋部に異所性軟骨が形成されることを見出した(図1)。さらに、LC3の減少、P62の上昇が観察され、電顕観察によるオートファゴソームの減少とともに、BMPシグナルによってmTORC1が上昇することでオートファジーが抑制されるという経路を示すことができた(図2A)。オートファジーの減少によりWntシグナルを司るベータカテニンの分解が抑えられ、カノニカルWntシグナルが上昇した(図2B)。通常、Wntシグナルは軟骨形成に対して抑制的であるが、頭部神経堤細胞の場合にはWntシグナルの上昇で軟骨分化が促進された(図2C)。これらの知見は頭部神経堤細胞の細胞系譜の決定機構と頭蓋顔面の形態形成機構に新しい展開を与えるものである。

楊 静文・三品 裕司
図1 構成的活性型BMP受容体ACVR1を介しての頭部神経堤細胞でのBMPシグナル活性の上昇は頭部顔面に異所性軟骨を誘導する。アルシアンブルー染色(左と中央)、サフラニンO染色(右)。

楊 静文・三品 裕司
図2 BMPシグナルの上昇によりオートファジーは抑制され、ベータカテニンは増加する。(A)オートファジーの減少が、P62(白矢印)の上昇、LC3パンクタ(白矢尻)の減少、さらに電顕的なオートファゴソーム(黒矢印)の減少で示された。SOX9陽性かつEGFP陽性細胞は軟骨前駆細胞を示す。(B)ベータカテニンとP62の上昇、LC3の減少がウエスタンブロットにより示された。(C)BMPシグナルの上昇が頭部神経堤細胞の軟骨系譜への分化決定を制御するモデル図。

著者コメント

 わたしは筆頭著者の楊静文(やんじんうぇん)です。ミシナ研究室のポスドクです。今回、頭部神経堤細胞の分化決定機構を明らかにできたこと、また、オートファジーを仲介としたBMPシグナルとWntシグナルの特別な関係を明らかにできたこと、大変うれしく思います。このプロジェクトはなかなか手強く、結論を得るまでに何度も難しい局面がありました。でも、最終的に感傷的ともいえるくらいに面白いストーリーを見出すことができました。それは素晴らしいメンターとラボメンバーに恵まれたためです。ミシナ研究室はとても協奏的、交響的なところで、難しい局面ではみんなが自然に知恵と力と勇気を出し合う体制ができています。ミシナ博士は私に、「君こそがこのプロジェクトを進めるベストの人材だ。全ての人とモノとチャンスは君のためにある。」という強いメッセージを送り続けてくれました。(楊静文、三品裕司・超訳)

 BMPシグナルを頭部神経堤細胞で増加させると異所性に軟骨ができるのを見出したのは今世紀の初頭になる。今ではシリア研究で世界をリードする小松義広博士(http://www.jsbmr.jp/1st_author/119_mkitami.html)がまだわたしの研究室にいたころである。現象としては大変興味深かったが、シリアの魅力に取り憑かれた小松博士は「宿題にしておいてください」という言葉を残してテキサスへ旅立って行った。そうこうするうちに武漢から楊静文博士を迎えることとなった。楊博士はオートファジーに造詣が深く、小松博士のデータをみて、これはオートファジーで説明できるのではないかと閃いたことが今回のブレイクスルーにつながった。宿題をやりとげるべく、小松研究室では北見恩美博士(http://www.jsbmr.jp/1st_author/185_mkitami.html)がWntシグナルとの関連を徹底的に調べ上げた。本人の感想にもあるように、プロジェクトはなかなか手強く、ビザの切り替えのために楊博士はパンデミックまっただなかの出身地に戻り、数ヶ月家族と離れ離れで過ごさねばならないという困難まで加わった。しかしながら、本人の洞察力と不屈の闘志、さらには上院議員や学部長まで含めた周囲の協力がこのようなストーリに結実したのは大変よろこばしいことである。オートファジーということで投稿前に大隅良典先生からコメントをいただくことができたのも幸いであった。(ミシガン大学歯学部生命科学材料科学補綴学科・三品 裕司)