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TOP > 1st Author > 木村 武司

核酸アプタマーを⽤いた軟⾻無形成症治療薬の開発

An RNA aptamer restores defective bone growth in FGFR3-related skeletal dysplasia in mice.
著者:Takeshi Kimura, Michaela Bosakova, Yosuke Nonaka, Eva Hruba, Kie Yasuda, Satoshi Futakawa, Takuo Kubota, Bohumil Fafilek, Tomas Gregor, Sara P. Abraham, Regina Gomolkova, Silvie Belaskova, Martin Pes, Fabiana Csukasi, Ivan Duran, Masatoshi Fujiwara, Michaela Kavkova, Tomas Zikmund, Josef Kaiser, Marcela Buchtova, Deborah Krakow, Yoshikazu Nakamura, Keiichi Ozono, Pavel Krejci
雑誌:Sci Transl Med. 2021 May 5;13(592):eaba4226.
  • 軟骨無形成症
  • 創薬
  • iPS細胞

木村 武司

論文サマリー

 軟⾻無形成症(ACH)は四肢短縮型低身長症の原因として最も頻度の高い骨系統疾患であり、新⽣児約 25,000 ⼈に対して1⼈の頻度で発⽣する。線維芽細胞増殖因子受容体3型(FGFR3)の機能獲得型変異が原因となって引き起こされることが分かっているが、 現在まで根本治療法の確立には至っていない。今回、我々はFGFRに結合するリガンドのうちFGF2に着目し、FGF2阻害剤であるRBM-007の治療効果についての研究を行った。

 RBM-007は37鎖長のRNA分子でFGF2に対して特異的かつ強い結合活性をもち、FGF受容体への結合を完全に阻害することができる核酸アプタマーである(Mol. Ther. 24, 1974–1986, 2016)。

 まず、MCF7細胞に野生型/変異型それぞれのFGFR3を発現させ、FGF2添加によってFGFR3のリン酸化が亢進すること、RBM-007を投与することでそれが低下することを示した。この結果から、ACHにおいて変異FGFR3がリガンド依存性に活性化されること、FGF2がリガンドとして活性を持つことが示唆された。更に、培養軟骨細胞と胎生18日のマウス脛骨を用いた実験系で、FGF2を添加すると増殖成長障害を呈すること、RBM-007によってそれが回復することを明らかにし、実際に軟骨細胞/組織でもRBM-007が効果を発揮することを示した。

 次に、ACHへの治療効果を検討するため、患児由来の疾患特異的iPS細胞(ACH-iPS)を用いた分化誘導とモデルマウスへの投与実験を行った。ACH-iPSは軟骨細胞への分化誘導が障害されるが、RBM-007を添加することで正常な軟骨組織を形成することが出来た。作成した軟骨組織を用いた異種移植モデルでも、RBM-007を投与することで、ACH-iPS由来の成長板軟骨における肥大軟骨細胞径を増大する効果を示した。変異FGFR3を発現させたACHモデルマウスと、新たに作成したヒトFGF2過剰発現マウスへの投与実験でも、RBM-007は成長障害を改善した。

 RNAアプタマーは抗体医薬に比べると、試験管内で合成可能で免疫原性が非常に低いという利点があることから、次世代分子標的医薬として期待されている。RBM-007は本邦でACHに対する第1相試験が、また米国において加齢黄斑変性症に対する第2相臨床試験が進行中である。今回の我々の研究によって、RBM-007は成長板軟骨においてFGF2を特異的に捕捉することでFGFR3シグナルを抑制し、ACHの病態を改善させ得ることを示した。

木村 武司
図1.ACH-iPSを用いたRBM-007の効果の検討

木村 武司
ACHモデルマウスの身長と大腿骨長に対するRBM-007投与の効果

著者コメント

 今回の成果は株式会社リボミック、Masaryk大学医学部のPavel Krejci教授の研究チームとの共同研究によって得られたものです。それぞれが出した結果を重ね合わせてストーリーを組み立てる過程はとてもエキサイティングで、このような素晴らしいプロジェクトに参加できたことを幸せに思います。
 私たちが担当したiPS細胞の実験系について、大学院生の安田紀恵先生が立ち上げて軌道に乗せたものなので、本研究は彼女の貢献抜きには語れません。大薗教授をはじめ阪大小児科の多くの先生方にご指導いただいたことについて、この場を借りて改めて御礼申し上げます。(大阪大学大学院医学系研究科小児科学・木村 武司)