日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 山崎 美和

CRISPR/Cas9を用いてPit1もしくはPit2を欠損させた骨芽細胞株は骨形成関連遺伝子の発現減少にもかかわらず石灰化の亢進を示す

Clonal osteoblastic cell lines with CRISPR/Cas9-mediated ablation of Pit1 or Pit2 show enhanced mineralization despite reduced osteogenic gene expression
著者:Yamazaki M, Kawai M, Kinoshita S, Tachikawa K, Nakanishi T, Ozono K, Michigami T
雑誌:Bone. 2021 Oct;151:116036. doi: 10.1016/j.bone.2021.116036. Epub 2021 Jun 9.
  • リン
  • 石灰化
  • アルカリホスファターゼ

山崎 美和

論文サマリー

 骨格においてリン(Pi)はヒドロキシアパタイトの構成成分として石灰化に寄与する。さらに近年、我々を含め、幾つかの研究室から、細胞外のPiが細胞に直接作用してシグナルを惹起し、遺伝子発現や細胞機能を制御することが報告されている。骨格におけるPiの多様な作用の一部は、細胞形質膜や基質小胞の膜上に存在するIII型ナトリウム‐リン酸(Na+/Pi)共輸送担体Pit1、Pit2を介することが推察されるが、その詳細は現在のところ不明である。そこで、本研究においては、骨芽細胞におけるPit1、Pit2の機能を明確にすることを目的として、マウス骨芽細胞系細胞株MC3T3-E1 Subclone4にCRISPR/Cas9によるゲノム編集を適用してPit1欠損細胞(Pit1-KO)およびPit2欠損細胞(Pit2-KO)を作製し、解析した。

 Pit1-KO細胞、Pit2-KO細胞においてはPi取り込みが減少し、細胞外のPiレベルが上昇していた。3 mM Pi存在下長期培養を行ったところ、Pit1-KO、Pit2-KOにおいては、骨芽細胞マーカー遺伝子の発現誘導がコントロール細胞に比較して抑制されていたのにもかかわらず、アリザリンレッド染色およびOsteoImageを用いて評価したin vitro石灰化が著明に亢進していた。未石灰化細胞を用いた解析では、Pit1-KO細胞、Pit2-KO細胞においては細胞外ピロリン酸と細胞外ATPの上昇が認められ、これらの変化は組織非特異型アルカリホスファターゼ(TNSALP)の発現および活性の低下によるものであった。Pit1-KO細胞、Pit2-KO細胞、コントロール細胞のいずれにおいても、高濃度Pi刺激によりTNSALPの発現および活性の低下を認めた。レンチウイルスベクターを用いたレスキュー実験により、Pit1-KO細胞やPit2-KO細胞で認められた石灰化の亢進、TNSALPの発現および活性の低下、細胞外ピロリン酸およびATPの上昇はいずれもPit1やPit2の欠損によるものであることが確認された。興味深いことに、Pit1-KO細胞やPit2-KO細胞においては、ATP受容体であるP2X7やP2Y2の発現が変化していた。

 以上の結果から、骨芽細胞におけるPit1あるいはPit2の欠損は、細胞外Piの上昇を介して石灰化の亢進とTNSALPの低下をもたらし、ピロリン酸やATPの代謝に影響を及ぼすことが示唆された。

山崎 美和
図:骨芽細胞におけるPit1あるいはPit2の欠損は、細胞外Piの上昇を介して石灰化の亢進とTNSALPの低下をもたらし、ピロリン酸やATPの代謝に影響を及ぼす

著者コメント

 我々は以前から、骨の成長過程においてIII型Na+/Pi共輸送担体は細胞や基質小胞内へのPiの取り込みとシグナル伝達という複数のプロセスに関与していると考えており、それぞれのプロセスにおけるPit1とPit2の機能を明確化したいと考えています。本研究では、ピロリン酸の測定など、難しいこともありましたが、Pit1/Pit2とTNSALP、ピロリン酸やATPの代謝との連関が示されたことから、今後さらに解析を進めたいと考えています。最後に、ご指導いただきました道上敏美先生、お世話になった先生方、研究室の皆様に深く感謝いたします。(大阪母子医療センター研究所 骨発育疾患研究部門・山崎 美和)