日本骨代謝学会

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頭蓋骨形成過程における繊毛内タンパク質及びゴルジ微小管関連タンパク質の役割

The molecular complex of ciliary and golgin protein is crucial for skull development.
著者:Yamaguchi H, Meyer MD, He L, Senavirathna L, Pan S, Komatsu Y.
雑誌:Development. 2021 Jul 1;148(13):dev199559.
  • 頭蓋骨
  • 頭部神経堤細胞
  • コラーゲン

山口 博之
著者のフェローシップ獲得祝いでTexMexランチ

論文サマリー

 全先天異常疾患の約3割において、頭蓋顔面領域でその形態異常を生じる。頭蓋骨は、頭部顔面骨において脳を保護する最も重要な骨である。頭蓋骨の発生過程に異常を生じると、脳の発達は遅延し、重篤な疾患を引き起こす。したがって、正常な頭蓋骨発生メカニズムを理解することは極めて重要である。これまでの数多くの先行研究により、頭蓋骨の発生において、増殖因子、転写因子群の制御メカニズムが骨芽細胞の増殖、及び分化に必須であることが明らかとなっている。しかしながら、骨芽細胞が、どのようにして骨基質(コラーゲン)を分泌し、頭蓋骨の発生を支持しているのだろうか?という問いに対して、現在のところ明確な回答は得られてはいない。今回の論文では繊毛内タンパク質IFT20とゴルジ微小管関連タンパク質GMAP210が相乗的に機能し、頭蓋骨の発生を制御していることを報告する。

 まず、コラーゲンの分泌様式を野生型マウスの頭蓋骨を用いて解析したところ、興味深いことに頭蓋骨の先端(Osteogenic front、以下OF)周辺にある骨芽細胞で、ゴルジ体のシス嚢部位にコラーゲン粒子が特異的に存在していることを見出した(図1)。この結果より、OF周辺にある骨芽細胞は、頭蓋骨にあるその他の骨芽細胞と比較して、より積極的にコラーゲン分泌を促している可能性が示唆された。近年、我々は、頭蓋骨の発生において、繊毛内タンパク質に属するIFT20が、コラーゲンの分泌に重要な役割を果たしていることを報告した。そこで、プロテオーム解析にてIFT20と共にコラーゲンの分泌に関与する分子群の探索を行なった。その結果、ゴルジ微小管関連タンパク質であるGMAP210を同定した。次に、頭部顔面骨の発生過程におけるGMAP210の機能を明らかにするために、神経堤細胞特異的にGMAP210を欠損したマウスを作製した。野生型と比較し、GMAP210を欠損させた神経堤細胞に由来する骨芽細胞では、細胞外へのコラーゲン分泌様式に異常が生じ、骨基質量の減少を認めた。更に、神経堤細胞特異的にIFT20とGMAP210の両遺伝子を欠損させたマウスにおいては、IFT20、或いはGMAP210単独遺伝子欠損マウスと比較し表現型がより重篤になることから、IFT20とGMAP210は、頭蓋骨の発生において相乗的に機能し、コラーゲンの分泌において重要な役割を果たしている可能性が示唆された(図2)。

山口 博之

山口 博之

 ヒト胎児において、GMAP210の機能喪失型変異は、軟骨無発生症を引き起こす。一方でこの胎児は、本来、軟骨細胞がその発生に貢献し得ない頭蓋骨においても骨形成不全を生じることが知られているが、その病因論の詳細は不明であった。今回の我々の解析により、GMAP210は軟骨細胞のみならず、神経堤細胞に由来する骨芽細胞においても機能することが示唆された。現在までのところヒトにおいて、IFT20遺伝子異常による疾患の報告はなされてはいないが、ヒトの頭蓋骨発生過程においても、IFT20とGMAP210の両分子は相乗的に機能し、コラーゲンの分泌機構を制御していることも推察し得る。

著者コメント

 このプロジェクトは、顕微鏡をのぞいた時に見つけた「発見」がきっかけで始まりました。免疫染色をしたサンプルを眺めていると、不思議なことに頭蓋骨の先端(上記のOF)にある骨芽細胞でのみ、コラーゲンの粒々がゴルジ体の中に見えたのです。初めは「免疫染色の失敗でもしたかな?」と思いましたが、何度やり直してもやはりOFにある骨芽細胞でのみ同じことが見えたので、「もしかするとこれは、何か面白いことを発見したのではないか!」と気づき、全身に電撃が走ったのを今でも覚えています。
 サイエンスの楽しさ・厳しさを一からご指導頂いたテキサス大学の小松義広先生、研究留学の機会を与えて頂き、快くサポートして頂いた東京医科歯科大学の小野卓史先生と井関祥子先生に感謝を申し上げます。また、アメリカでの生活を日々支えてくれている妻と、日常に刺激と感動という強烈なスパイスを与え続けてくれている3人の子供たちにも感謝の言葉を述べさせていただきます。(テキサス大学医学部 小児科学分野・山口 博之)