日本骨代謝学会

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PTHは低分子タンパク質SLPIを介して骨量を増加させる

SLPI is a critical mediator that controls PTH-induced bone formation
著者:Akito Morimoto, Junichi Kikuta, Keizo Nishikawa, Takao Sudo, Maki Uenaka, Masayuki Furuya, Tetsuo Hasegawa, Kunihiko Hashimoto, Hiroyuki Tsukazaki, Shigeto Seno, Akira Nakamura, Daisuke Okuzaki, Fuminori Sugihara, Akinori Ninomiya, Takeshi Yoshimura, Ryoko Takao-Kawabata, Hideo Matsuda, Masaru Ishii
雑誌:Nat Commun. 2021 Apr 9;12(1):2136.
  • 破骨細胞
  • 骨芽細胞
  • PTH

森本 彬人

論文サマリー

 骨代謝を担う中心的な細胞である破骨細胞と骨芽細胞の間には密接な相互作用があり、骨の恒常性を維持しています。副甲状腺ホルモン(PTH)は、この相互作用を促進することによって、骨吸収優位の状態から骨形成優位の状態へとバランスを変化させ、骨同化作用を示すことが知られています。しかし、この薬効がどのような分子メカニズムによって制御されているかについて、これまで明らかにされてきませんでした。

 本研究では、PTHを間欠的に投与したCol2.3-ECFPマウスから骨芽細胞を単離して網羅的遺伝子発現解析を行い、セリンプロテアーゼ阻害低分子タンパク質SLPI (secretory leukocyte protease inhibitor) がPTHによって骨芽細胞内で発現上昇することを見出しました。SlpiノックアウトマウスではPTH間欠投与による骨形成が阻害され、骨吸収が上昇することから、SLPIはPTHの骨同化作用に関わる重要な因子であることを同定しました。次に、SLPIが骨形成に与える影響を検討するため、SLPIを過剰発現する骨芽細胞を作成しました。その結果、骨芽細胞の増殖、分化、石灰化が亢進し、SLPIは直接的に骨形成を促進することが明らかとなりました。SLPIを過剰に発現した骨芽細胞は、破骨細胞との細胞間接着能が高く、細胞間相互作用を促進することが分かりました。一方で、SLPIは破骨細胞機能には直接的な影響はあたえませんでした。このことから、SLPIの骨吸収に対する影響は直接的な作用ではなく、骨芽細胞と破骨細胞の接触を促進することで骨吸収が抑制され、さらに骨形成が促進されることが示唆されました。最後に、マウス頭蓋骨の生体イメージングによりCol2.3-ECFP/TRAP-tdTomatoマウスでの破骨細胞と骨芽細胞の相互作用を解析したところ、Slpi欠損によりPTH投与下で促進される骨芽細胞と破骨細胞の細胞間相互作用が阻害されました。以上の結果から、SLPIは骨芽細胞と破骨細胞のコミュニケーションを制御し、PTHによる骨同化作用を促進することが明らかとなりました。

森本 彬人

著者コメント

 PTHを投与すると、破骨細胞の分化と骨芽細胞による骨形成の活性化が同時に起こり、これらが時空間的に連携することで骨を修復していきます。私はこの現象を見て、損傷した臓器の組織修復に関わる何らかの分子メカニズムが関わっている可能性を考えました。解析を進めたところ、組織再生や抗炎症に関わると言われる低分子タンパク質SLPIが、強くこの現象と関わっていることを発見しました。この研究を遂行するにあたって、骨を壊す破骨細胞、骨を作る骨芽細胞の二つの細胞の間に存在する複雑な細胞間相互作用ネットワークを理解するのが本当に難しかったです。しかし、石井先生、菊田先生をはじめとする研究室の先輩方のご指導のおかげでなんとか論文化することができました。また、ご助力いただきました大学内外の関係各位に対して、この場を借りて感謝を申し上げます。(大阪大学大学院医学系研究科 免疫細胞生物学・森本 彬人)