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低出力超音波パルスによる骨折治癒における骨細胞の役割

Osteocytes as main responders to low-intensity pulsed ultrasound treatment during fracture healing.
著者:Tatsuya S, Naomasa F, Kiyomi T, Yoshimasa K, Toshiaki F, Masato T, Mari S.
雑誌:Sci Rep. 2021 May 13;11:10298
  • 骨細胞
  • LIPUS
  • ゼブラフィッシュ

清水 達哉

論文サマリー

 骨組織においてメカニカルストレスは,骨のリモデリングを制御し骨量の維持に寄与することが知られている。しかし,メカニカルストレスにおける骨細胞の重要性は、細胞応答機構や細胞内情報伝達機構 を含め完全には解明されていない。

 超音波刺激はメカニカルストレスの一つであり,低出力超音波パルス(LIPUS)は骨折治癒を促進するために臨床的に利用されてきた。これまでの基礎研究からLIPUSは,骨折治癒過程のさまざまな細胞に作用することが報告されている。しかし,LIPUSが骨折治癒を促進する際に,骨細胞が果たす役割は明確ではない。そこで,本研究では骨細胞に焦点をあて、LIPUSの骨折治癒促進作用について調べた。

 メダカの骨には骨細胞がなく、ゼブラフィッシュの骨には骨細胞があることが知られている。これらの魚を用いて、骨細胞の有無による骨折治癒におけるLIPUSの効果を調べた。魚の尾骨を骨折させLIPUSを毎日20分照射した。LIPUS刺激によりゼブラフィッシュでは骨折治癒が促進されたが,メダカでは促進されなかった。このことから、骨細胞はLIPUS応答および効果に重要であることが示唆されたので、骨細胞におけるLIPUS応答遺伝子を同定しそれら遺伝子が担う機能的役割を解析した。骨細胞様細胞株であるMLO-Y4細胞にLIPUS照射を行い, RNA-sequencing解析を行った。その結果,LIPUS応答遺伝子として179の遺伝子を同定した。これらの遺伝子を用いて機能的クラスタリング解析を行ったところ、免疫、分泌、転写が上位クラスターとして抽出された。次に,これらのクラスターに分類された遺伝子(免疫:20個, 分泌:33個, 転写:30個)のLIPUSによる発現変化が,ゼブラフィッシュおよびメダカの骨折モデルでも一致しているかを調べた。魚の尾骨を骨折後LIPUS刺激を加え、RNAを抽出し遺伝子発現を測定した。骨細胞を有するゼブラフィッシュにおいて、免疫および分泌クラスターに含まれる遺伝子はLIPUS刺激により6-16%しか変化しなかった。一方、転写クラスターに含まれる遺伝子はLIPUS刺激により65%変化した。これらの遺伝子のうち、Egr1, Egr2, FoxQ1, JunB, Helz, NFATc1は骨細胞を有しないメダカにおいてはLIPUS刺激で発現変動がなかった。また、これらの転写因子のターゲット解析をおこなったところ、COX2/PGE2, BMP, Wnt/b-cateninシグナルに関連する遺伝子をターゲットとしていた。つまり、LIPUS刺激に応答した骨細胞がEgr1, Egr2, FoxQ1, JunB, Helz, NFATc1という転写因子を介して、骨リモデリングおよび骨折治癒に関わるシグナル機構を喚起することで骨折治癒促進に働くと考えられた。

清水 達哉

清水 達哉

著者コメント

 かの有名なスポーツ選手であるベッカムや松井秀喜も使用したと言われているLIPUS装置。臨床的には、この装置を使用することで骨折治癒期間が約40%短縮されると言われています。骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞すべてにおいて効果を発揮しているのではないかといわれていますが、どの細胞が主に応答しているのかは、明らかになっていません。
 その理由としては、ほとんどの動物が骨細胞と骨芽細胞をともに有しており、骨細胞を欠いた動物を使用しての骨折実験が難しいからだと考えられます。今回の研究結果により、少しでもLIPUS治療の研究が進み、いずれは歯科の分野まで保険適応の幅が広がることを願っています。(北海道大学歯学部口腔診断内科・清水 達哉)