日本骨代謝学会

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4-フェニル酪酸は骨形成不全症患者由来iPS細胞から分化誘導した骨芽細胞の石灰化を促進する

4-phenylbutyric acid enhances the mineralization of osteogenesis imperfecta iPSC-derived osteoblasts.
著者:Shinji Takeyari, Takuo Kubota, Yasuhisa Ohata, Makoto Fujiwara, Taichi Kitaoka, Yuki Taga, Kazunori Mizuno, Keiichi Ozono
雑誌:J Biol Chem. 2020 Nov 5;296:100027. doi: 10.1074/jbc.RA120.014709.
  • 骨形成不全症
  • 4-PBA
  • iPS細胞

武鑓 真司

論文サマリー

〔目的〕
 骨形成不全症(OI)は主にCOL1A1、COL1A2遺伝子変異により骨脆弱性をきたす疾患である。対症療法としてビスホスホネート製剤による治療が行われているが、重症例に対する効果は限定的である。4-フェニル酪酸(4-PBA)はOIゼブラフィッシュモデルに対して効果を示し、新規治療薬として期待される薬剤である。OI患者由来の細胞を用いて、OIの病態解析と4-フェニル酪酸の効果を検討することを目的とする。

〔方法〕
 COL1A1あるいはCOL1A2遺伝子変異を同定したOI患者6例{グリシン置換変異2例、ナンセンス変異1例、エクソンスキップ変異3例}から、皮膚線維芽細胞を採取し、健常者由来線維芽細胞3株と比較して実験を行った。小胞体(ER)内へのI型コラーゲン蓄積の程度を蛍光免疫染色によって評価した。I型コラーゲンの遺伝子発現をRT-qPCRで、蛋白量をELISAで評価した。細胞から分泌されたI型コラーゲンの電気泳動パターンをSDS-PAGEで、翻訳後修飾をLC-MSで評価した。I型コラーゲンのらせん構造の異常をCollagen Hybridizing Peptideで検出した。線維芽細胞からiPS細胞を作成し、iPS細胞から分化誘導した骨芽細胞での石灰化能をアリザリンレッド染色とCa定量により評価した。上記の実験で4-PBAの効果を検討した。

〔結果〕
 グリシン置換変異とエクソンスキップ変異のOIの線維芽細胞ではプロコラーゲンの過剰なERへの蓄積がみられ、4-PBAによって蓄積が減少した。I型コラーゲンの遺伝子発現、蛋白量はともにグリシン置換変異のOIで増加しており、4-PBAによっていずれも減少した。分泌されたI型コラーゲンの電気泳動パターンはグリシン置換変異のOIで健常より幅の広いバンドがみられ、LC-MSではリジンの糖鎖過修飾がみられたが、4-PBAによる変化はみられなかった。OI由来のI型コラーゲンにはらせん構造の異常が検出され、4-PBAによって異常が減少した。誘導骨芽細胞の石灰化能はグリシン置換変異のOIで低下しており、4-PBAの添加によって石灰化能が改善した。

〔考察〕
 従来、I型コラーゲンの質に異常があるとされてきたグリシン置換変異のOIはI型コラーゲンの量の異常も有する可能性がある。4-PBAは過剰なI型コラーゲンの産生を抑制することでER内のI型コラーゲンの蓄積を減少させることに加えて、らせん構造を改善させることで石灰化能を促進させる可能性がある。我々はOIの治療薬として4-PBAの国内特許を2018年に取得しているが、4-PBAは既に他の疾患に対して臨床応用されているため、OIの新規治療薬として期待される。

武鑓 真司

著者コメント

 臨床の場で骨形成不全症の患者さんと接する機会を持ちながら、同疾患の治療法開発の研究を続けることができ、非常に有意義な研究生活を送ることができました。大薗先生をはじめ学内の先生方はもちろんのこと、学外の先生方にも多くのご指導を頂いて研究成果をまとめることができました。この場をお借りして感謝を申し上げたいと思います。(大阪大学大学院医学系研究科小児科学・武鑓 真司)