GC上の遺伝子多型は血清ビタミンD値と強く関連するとともに大腿骨近位部骨折のリスク多型でもある
著者: | Shinji Yoshida, Katsunori Ikari, Takefumi Furuya, Yoshiaki Toyama, Atsuo Taniguchi, Hisashi Yamanaka and Shigeki Momohara |
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雑誌: | Arthritis Research & Therapy 2014, 16:R75 |
- 関節リウマチ
- ビタミンD
- 大腿骨近位部骨折
論文サマリー
関節リウマチ(RA)はその発症や重症化過程に環境要因と遺伝要因の双方が関与していると考えられており、これまでに100を超えるRAの疾患感受性遺伝子が報告されてきた。しかし生命予後や合併症の発生に関わる遺伝子についての研究はまだ充分には行われていない。今回我々は血清ビタミンD値関連遺伝子を候補として、RA患者における大腿骨近位部骨折の発生に関連する遺伝子の同定を試みた。東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターで実施中のRAに関する大規模観察研究であるIORRAコホートに登録されている患者1957名を解析対象とした。血清25(OH)D濃度をターゲットとした欧米人でのゲノム網羅的関連解析で報告された血清25(OH)D値関連SNP5つを候補とし、まず血清25(OH)D濃度と各SNPとの関連を性、年齢などの既知の血清25(OH)D値関連因子を含めた重回帰分析で解析した結果、ビタミンDの輪送を担うGC(group-specific component)をコードする遺伝子上のrs2282679と強い関連を認め(P = 8.1 x 10−5)、その他のSNPでは関連を認めなかった。さらにこのrs2282679(GC)と大腿骨近位部骨折との関連を、IORRAコホート参加から骨折した日までの期間を考慮し、BMIや性などの既知の大腿骨近位部骨折関連因子とともにCox重回帰によって検討した結果、有意な関連を認めた(ハザード比 = 2.52、P = 0.039)。GC遺伝子はビタミンD代謝経路において重要な役割を果たしており、リスク多型を有することが長期的な血清ビタミンD値の低下につながり、さらには大腿骨近位部骨折のリスクとなる可能性があることを示した。今後はこのリスク多型を有する患者に積極的にビタミンDを投与することで、生命予後とも強い関連を持つ大腿骨近位部骨折のリスクを軽減出来るかもしれないと考えている。
著者コメント
IORRAコホートは2000年に開始された遺伝子解析を含むRAに関する大規模観察研究です。現在まで14年にわたり年2回のデータ収集が行われており、収集されるデータは多彩かつ豊富で、毎回データ収集を行う縦断的調査項目と横断的に単発で収集する調査項目に分かれています。私は大学院博士課程から一貫して疾患関連遺伝子解析をテーマに研究を続けており、これまでは主に疾患感受性遺伝子にフォーカスしていましたが、今回は2011年に収集された血清ビタミンD値のデータと継続的に収集されている骨折データを用いて、RAにおける骨折関連遺伝子を同定することを試みました。10年を超えるデータ収集、DNA収集で構築された研究基盤が整備されており、研究設備も充実しているため、アイデアさえ生まれれば、その結果を確認するのは容易です。今回は論文投稿過程もスムーズだったので特段の苦労話は出来ませんが、この論文は間違いなく10年以上少しずつ継続して蓄積してきた苦労の賜物の一つです。骨折研究を推進している講師の古谷先生をはじめご協力いただいたすべての方々に深く感謝します。(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター整形外科・猪狩 勝則)