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Bmpr1aによる幹細胞制御メカニズムと頭蓋骨縫合早期癒合症

BMPR1A maintains skeletal stem cell properties in craniofacial development and craniosynostosis.
著者:Takamitsu Maruyama, Ronay Stevens , Alan Boka , Laura DiRienzo , Connie Chang, Hsiao-Man Ivy Yu , Katsuhiko Nishimori , Clinton Morrison , Wei Hsu
雑誌:Sci Transl Med. 2021 Mar 3;13(583):eabb4416.

丸山 顕潤

論文サマリー

 頭蓋骨は5枚の骨に分かれており、そのつなぎ目が頭蓋骨縫合(suture:スーチャー)である。スーチャーは骨と間葉系の細胞により構成される単純な構造をしている。乳児期の急速な脳の成長に合わせ、頭蓋骨はこのスーチャーで骨形成を活発におこない拡大する。人では30歳前後でスーチャーが骨化し、癒合する。マウスのほとんどのスーチャーは生涯を通し癒合しない。頭蓋骨早期癒合症(craniosynostosis)はスーチャーが早い時期に癒合してしまう病気であり、頭蓋骨の成長が妨げられ、頭蓋骨の変形、頭蓋内圧の上昇、脳への障害、目や耳などの感覚器への障害など多くの症状を引き起こす。今回の我々の報告は新しい頭蓋骨早期癒合症のメカニズムに関するものである。

 スーチャーは2つの全く逆の役割を同時にこなしているように見える。1つ目の役割は骨芽細胞(osteoblast)を作り続け、骨を活発に作り頭蓋骨を拡大すること。2つ目の役割はスーチャーの中央部分の間葉系細胞の未分化状態を維持し、骨化しない状態を保つこと。ではなぜスーチャーが開いているのだろうか。これも2つの視点がある。1つ目は骨芽細胞に注目し、骨芽細胞が分化していないから空いているとする見方。もう一つはスーチャ中央部の未分化細胞に注目し、閉じないようにするメカニズムがあるとする見方。これはドーナツの穴をドーナツがないとみるか、ドーナツの穴があるとみるか、のような問に聞こえるかもしれない。答えによってドーナツの味が変わるわけではないが、頭蓋骨癒合症治療へのアプローチには大きな違いが生まれる。

 1990年代から2000年代前半にかけて、早期癒合症の原因遺伝子のいくつかが同定され、早期癒合症は過剰な骨芽細胞により骨形成が早まりすぎた結果であると考えられていた。したがって、骨芽細胞の分化スピードを適切にコントロールすることで癒合を予防・治療するという考えのもと、骨芽細胞分化の研究が盛んに行わていた。しかし2015-2016年に、全く新たなコンセプトが提唱された。スーチャーの中央に幹細胞が存在しており、スーチャーが維持されているという考え方である。先駆けとなったのは我々ロチェスター大学Hsu研究室とサウスカリフォルニア大学のChai研究室が発見したスーチャーの中央部分に存在した幹細胞である。この幹細胞は骨芽細胞の前駆細胞を供給しつづけることで頭蓋骨の成長を担っていた。また自らは幹細胞として自己複製(self-renewal)し、未分化の状態を保つことによりスーチャーを維持していることが示唆された。

 今回の我々の論文では、この幹細胞によるスーチャー維持のコンセプトを用いることで頭蓋骨癒合症の説明を試みた。幹細胞がなくなったからスーチャーが癒合したのだ、という仮説である。この仮説の検証のために、大きなチャレンジが2つあった。1つ目は幹細胞の維持に必要な遺伝子はなにか、を同定すること。もう一つは同定した遺伝子を幹細胞でのみ欠損させ頭蓋骨癒合症をマウスで再現すること。そこで、2016年に我々が同定したAxin2というスーチャー幹細胞特異的マーカーを使用し、我々は幹細胞で発現が高い遺伝子をマイクロアレイ解析により同定した。更にバイオインフォマティクスを用いて、幹細胞でのシグナリング強度を統計的に推測した。その結果、幹細胞ではほとんどのシグナル強度は低下していたが、bone morphogenetic proteins (BMP)シグナルは例外的に活性化していることが明らかとなった。BMPシグナルは3種類の一型受容体の存在が知られている。そのなかでもBmpr1aのみが幹細胞で高く発現していた。そこで、Bmpr1aをAxin2発現幹細胞でのみ欠損させるマウスモデルを作成し、仮説の検証を行った。驚くべきことに、この遺伝子改変マウスでは異所性の骨がスーチャーの中央部に出現、拡大し、癒合を引き起こした。さらなる検証の結果、幹細胞数の減少、骨芽細胞の増加が観察された。また、Bmpr1aは幹細胞の自己複製に必須であることが示された。これらの結果は、頭蓋骨癒合症が幹細胞の異常により引き起こされる可能性を示唆する初めての報告となった。実際、Cole-Carpenter症候群のように骨形成不全と頭蓋骨早期癒合症が同時に発症するケースが報告されており、今までの骨芽細胞の分化異常では説明が困難であった。今回の発見が頭蓋骨癒合症の診断・治療にとって大きな一歩となることを祈っている。さらに、スーチャー幹細胞の単離、培養をマウスだけでなくヒト頭蓋骨組織からも成功させた。詳しくは本論文を参照してほしい。

著者コメント

 2021年6月よりForsyth Instituteというハーバード大学の関連研究施設でラボをスタートさせました。今後は幹細胞研究を拡大させ器官再生に取り組んでいきます。当面は歯髄の幹細胞の同定と再生にチャレンジしていきます。また、老化に関連する病気にも興味を持っており、microRNAと骨粗鬆症や変形性関節症の研究も進めています。ボストンという最高の環境で一緒にサイエンスを楽しみませんか?興味のある方はお気楽にメール (tmaruyama@forsyth.org) にてお問い合わせください。(Department of Dentistry, Center for Oral Biology University of Rochester Medical Center・丸山 顕潤)