日本骨代謝学会

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TMEM53の機能不全はBMP-SMADシグナリングの調節異常を介して新型骨硬化症を起こす

Deficiency of TMEM53 causes a previously unknown sclerosing bone disorder by dysregulation of BMP-SMAD signaling.
著者:Long Guo, Aritoshi Iida, Gandham SriLakshmi Bhavani, Kalpana Gowrishankar, Zheng Wang, Jing-Yi Xue, Juan Wang, Noriko Miyake, Naomichi Matsumoto, Takanori Hasegawa, Yusuke Iizuka, Masashi Matsuda, Tomoki Nakashima, Masaki Takechi, Sachiko Iseki, Shinsei Yambe, Gen Nishimura, Haruhiko Koseki, Chisa Shukunami, Katta M Girisha, Shiro Ikegawa
雑誌:Nat Commun (2021) 12:2046
  • TMEM53
  • 骨硬化症
  • 骨形成蛋白(BMP)

郭 竜
左から、池川 志郎、薛 婧怡、郭 竜(筆頭著者)、大槻 知子、王 錚

論文サマリー

 理化学研究所(理研)生命医科学研究センター・骨関節疾患研究チームの郭竜上級研究員、池川志郎チームリーダーらの共同研究グループは、新型の骨硬化症を発見し、その原因遺伝子TMEM53 を同定した。本研究成果は、骨の希少遺伝病や難病の治療法の開発、および骨形成シグナルの核膜での制御機構の解明につながると期待できる。

 本研究グループでは、遺伝性難病の医療と研究のために「骨系統疾患コンソーシウム」を設立し、原因遺伝子が未知の骨関節難病の臨床データを全世界から収集している。今回、これまで知られていなかった新型の骨硬化症を持つ4家系5人の患者を発見した。この新型骨硬化症は、頭蓋骨と頭蓋底の骨硬化、頭骨奇形、管状骨の骨幹端の異形成などの特徴的異常を持っており(図1)、「Ikegawa型頭蓋管状骨異形成症(Craniotubular dysplasia, Ikegawa type)」と名付られた。

 全エクソームシーケンス解析により遺伝子変異を探索したところ、患者全員がTMEM53遺伝子の両方の対立遺伝子座位に遺伝子の機能喪失を引き起こすと考えられる変異を持っていた。TMEM53は核膜の外層に存在するタンパクで、その機能、特にヒトの骨格形成における役割は分かっていなかった。ゲノム編集技術を用いてTmem53のノックアウト(KO)マウスを作製したところ、成長パターン、外見、骨格異常などいずれもヒトの患者とよく似た表現型を示した(図2)。

 KOマウスの頭蓋骨の骨芽細胞の網羅的RNAシーケンスデータを元にbig data解析を行ったところ、KOマウスでは、骨形成の主要なシグナルのひとつであるBMPシグナルが亢進していることがわかった。そこで、TMEM53をノックアウトしたヒト細胞株を作成し、BMPシグナルの異常を調べると、シグナルを核に伝達するメディエーターであるリン酸化されたSMAD1/5/9が、KO細胞の核内に増加していることがわかった。リン酸化SMADなど細胞内のシグナルのメディエーターが細胞質から核内に移行するには、核膜孔を通過しなければならない。TMEM53タンパクが核膜孔周辺に存在することから、TMEM53は、核膜孔で、細胞核へのSMADの蓄積を防ぐことにより、特異的にBMP-SMADシグナルの伝達を阻害する、いわば、門番(gate-keeper)の役割を担っていないかという仮説を立てている。そして、その役割の欠損は、BMPシグナルを過剰に活性化することによって骨芽細胞の分化を促進し、この新しい疾患の多彩な表現型を作り出すとが考えている。本研究を出発点に、核膜孔での骨代謝に関する細胞内シグナルの制御機構の解明が進展すると期待される。

郭 竜
図1.新型骨硬化症、Ikegawa型頭蓋管状骨異形成症のレントゲン像

郭 竜
図2.Tmem53-KOマウスの骨格異常は、患者とよく似た描像である(左と中)。TMEM53はBMP-SMADシグナリングを抑制する(右)

著者コメント

 私は子供の頃からテレビゲームの影響を受け、日本文化、特に戦国時代の歴史が大好きです。大学時代、日本語を自習し、2010年に京都大学に留学しました。古代日本を代表する京都文化を浴びながら、医学博士号所得に6年間苦闘しました。ポスドクで、京大・開研究室の骨・軟骨の基礎研究と理研・池川チームの骨関節疾患の遺伝学研究を経験し、骨関節難病の原因遺伝子の同定とそのメカニズムの解明という分野に取り組んできました。過去5年で筆頭著者或は責任著者の論文を13本出し、日本骨代謝学会研究奨励賞と日本人類遺伝学会奨励賞を頂くことができました。
 今回の研究は、大変苦労しました。5年弱かかりました。特に、KOマウスの表現型評価とそのメカニズムの同定に苦しみました。ゼブラフィッシュでの研究経験は持っていましたが、本格的にマウスを使う研究は、初めてでした。何度も回り道をしましたが、池川先生だけでなく、中島友紀先生、宿南知佐先生、武智正樹先生などラボの外部の先生方のご指導のおかげで、やり遂げることができました。心より感謝申し上げます。(理化学研究所・郭 竜)