日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 久木田 明子・平田 寛人

Pmepa1とNedd4は小胞輸送制御を介して破骨細胞からの酸の産生をコントロールする

PMEPA1 and NEDD4 control proton production of osteoclasts by regulating vesicular trafficking
著者:Hirohito Hirata, Xianghe Xu, Kenichi Nishioka, Fumikazu Matsuhisa, Shuji Kitajima, Toshio Kukita, Masatoshi Murayama, Yasuteru Urano, Hiroshi Miyamoto, Masaaki Mawatari, Akiko Kukita
雑誌:FASEB J. 2021 Feb;35(2):e21281. doi: 10.1096/fj.202001795R.
  • 破骨細胞
  • 骨吸収
  • リソソーム

久木田 明子・平田 寛人
左:佐賀大学医学部整形外科学講座(平田第一著者、馬渡教授)
右:佐賀大学総合分析実験センター生物資源開発部門(松久、北嶋先生)と医学部人工関節学講座(久木田)

論文サマリー

 骨面上で成熟した破骨細胞はリソソームを細胞膜と融合させ、酸やカテプシンKを細胞外に放出して骨を溶かす。Pmepa1 (Prostate transmembrane protein androgen induced-1)は細胞内小胞の膜蛋白質で、ユビキチンリガーゼNedd4ファミリーと相互作用して、癌細胞で細胞の増殖、転移、オートファジ―を制御する。我々は、Pmepa1が骨吸収中の破骨細胞で高く発現し骨吸収制御に関わることを報告した(Xu X. et al. FASEB. J. 2019)。本論文では、Nedd4結合領域を持たないPmepa1 mutant マウスを作成してPmepa1のin vivoにおける働きや骨吸収中の破骨細胞を詳細に解析した。

 Pmepa1 mutant マウスの脛骨及び椎骨の海綿骨のμCTによる骨構造解析を行ったところ、骨量が野生型マウスと比較して増加していた。骨形態計測では、破骨細胞数の減少や骨吸収の低下が見られたが、骨芽細胞数や骨形成の変化は見られなかった。さらに、骨髄マクロファージからの破骨細胞の形成とその骨吸収能を比較した結果、破骨細胞分化には差が見られなかったが、Pmepa1 mutant破骨細胞の骨吸収が低下していた。そこで、in vitroで形成した破骨細胞を象牙質切片上で培養し骨吸収中の破骨細胞を共焦点レーザー顕微鏡により詳細に解析した。Pmepa1 mutant破骨細胞のカテプシンKの産生能には変化が見られなかったが、破骨細胞からの酸の放出が顕著に低下していた(図1)。また、PMEPA1は骨吸収中の破骨細胞内のリソソームにV-ATPaseのサブユニットV0A3、V0D2やNEDD4と共局在していた。NEDD4は破骨細胞で高く発現しており、Nedd4の発現を抑制すると酸の放出が減少し骨吸収能が低下した。さらに、Pmepa1 mutantやNedd4の発現を抑制した破骨細胞内ではV0A3やV0D2のapical membrane側の分布が野生型の破骨細胞と比較して低下していた。また、破骨細胞の小胞輸送に関わるオートファジータンパク質の発現の低下もみられた。以上のことから、PMEPA1とNEDD4は、破骨細胞でリソソームを小胞輸送により細胞外に放出する作用に関わり骨吸収を制御していることが示唆された(図2)。本研究におけるPmepa1 mutantマウスの作製はCRISPR/Cas9システムを用いた方法で、西岡憲一先生と佐賀大学総合分析実験センター 生物資源開発部門の北嶋先生、松久先生との共同研究で行いました。(佐賀大学医学部人工関節学講座・久木田 明子)

久木田 明子・平田 寛人
図1 野生型WTとPmepa1 mutantマウスの破骨細胞からのプロトンの産生
Red:BSA-RhPM, Blue:核, Green:細胞膜
Rh-PM(酸感受性蛍光プローブ)

久木田 明子・平田 寛人
図2 PMEPA1とNEDD4による破骨細胞からの酸の放出機構 PMEPA1は破骨細胞のリソソームにNEDD4やV-ATPaseのサブユニットVOD2,VOA3と共局在し、微小管のモータータンパク質と相互作用してリソソームの細胞膜への移動に関与すると考えています

著者コメント

 整形外科医として臨床・手術に明け暮れていた日々でしたが、一つのことに腰を据えて勉強する機会が欲しいと思い飛び込んだ基礎の世界でした。研究を始めた当初は学生時代の非勤勉を恨みましたが、指導頂いた先生方のおかげで徐々に理解できることが増え、知識が深まるにつれ破骨細胞・骨代謝の魅力に惹かれていきました。改めてここにご指導いただいた久木田先生、馬渡先生を始め共著の先生方に深謝いたします。
 PMEPA1というタンパク質は骨吸収中の破骨細胞で発現する特徴があり、その特性が故に培養は必ず象牙切片上で行わねばならず、実験系の確立に時間を要しましたが論文として形になったことを心から嬉しく思います。
 今後PMEPA1の研究がさらに進展し骨粗鬆症治療に貢献できる日が来ることを願っています。(佐賀大学医学部整形外科学講座・平田 寛人)