日本骨代謝学会

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大気圧走査電顕ASEMを用いた軟骨内骨化における軟骨・骨の細胞と組織の詳細な液中観察:Keap1欠損にみられる骨軟化症

Liquid-phase ASEM imaging of cellular and structural details in cartilage and bone formed during endochondral ossification: Keap1-deficient osteomalacia.
著者:Eiko Sakai, Mari Sato, Nassirhadjy Memtily, Takayuki Tsukuba, Chikara Sato
雑誌:Sci Rep. 2021 Mar 11;11(1):5722.
  • 軟骨内骨化
  • 電子顕微鏡
  • Keap1

坂井 詠子

論文サマリー

 微細構造の観察には光学および電子顕微鏡が広く用いられ、多くの偉大な発見がなされてきました。大気圧走査型電子顕微鏡 (ASEM)は、これまでの電子顕微鏡とは少し異なり、組織を脱水や包埋や薄切する必要がなく、凍結も不要で、アルデヒド固定後の組織を0.2mm程度の厚切り切片にして直接観察することが可能です。組織や細胞を乾燥させず自然に近い親水環境で観察できる走査電顕ASEMでは、ディッシュ型試料ホルダーの底に張られた窒化シリコン超薄膜上に試料を置き、ラジカル除去剤であるグルコース溶液中の試料を倒立配置された走査電顕で下から観察します。私達は以前、ASEMでは石灰化の度合いの違いが電子密度の差として観察されることから、骨芽細胞初代培養におけるCaPの生産を観察できること、リンタングステン酸 (PTA)で組織を染色すると骨と周辺の細胞を観察できること、さらに特異抗体を用いた免疫電顕が可能であることを発表しました(C. Sato, E. Sakai et al., Sci. Rep. 9:7352, 2019)。今回の論文は、マウス発生時の軟骨内骨化を観察したものです。固定後の試料をPTAで染色するだけで海綿骨周辺に破骨細胞様細胞を8000倍で観察することができました(図A)。皮質骨中に埋め込まれた骨細胞(図B)や周辺の骨芽細胞様細胞との間のフィラメント構造も観察されました。また胎生15.5日齢マウス大腿骨の増殖軟骨層と軟骨膜層の間に周辺の電子密度とは少し異なる境界線構造と、それに付着するかのように存在する紡錘形のボーダーライン軟骨細胞、および増殖軟骨細胞や軟骨膜細胞とも異なる円形の細胞を見ることができました(図C)。さらに以前この1st Authorで紹介させていただいた酸化ストレスを制御する転写因子Nrf2と、その抑制因子Keap1の遺伝子改変マウス (E. Sakai et al. FASEB J. 31, 4011-22, 2017)を用いて軟骨内骨化を観察しました。生後6日の野生型マウス大腿骨では無染色時でさえも電子密度の高い部分があること、即ち石灰化が起こっているのに対し、Keap1−/− マウスでは石灰化が見られず骨軟化症様の表現型を示しました。PTAで染色すると野生型マウスは静止軟骨の肥大化が見られましたが、Keap1−/− マウスでは肥大化が見られませんでした。Keap1−/− マウスではNrf2の恒常的な活性化が起こります。私達はKeap1−/−::Nrf2+/+ マウスでは見られない静止軟骨層への血管新生がKeap1−/−::Nrf2+/− マウスでは見えることを明らかにしました。Keap/Nrf2は軟骨内骨化において重要な役割をしていることが明らかになりました。ハイスループットな本技術は硬組織研究への応用が期待できます。

坂井 詠子

著者コメント

 本研究はこの顕微鏡を開発した産業技術総合研究所健康医工学研究部門の佐藤主税先生との共同研究によるものです。筑波先生の理解なくてはできないことでした。産総研では佐藤先生ご夫妻のお陰で朝から夜中まで食べる時間も惜しんでの観察でしたが、綺麗に撮影できた時には手を取り合って喜びました。産総研には格安で机も広い快適な宿泊施設があり非常に便利でした。ミシガン大学の小野先生と松下先生はボーダーライン軟骨細胞を確認して下さいました。長崎大学の森石先生には教えていただくことばかりでした。この場を借りて御礼申し上げます。骨代謝学会で論文の紹介をさせていただくことに心から感謝いたします。(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科歯科薬理学分野・坂井 詠子)