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RANKL/OPG比は損傷した歯髄における破歯細胞形成を調節する

  • 破歯細胞
  • RANKL/OPG比
  • 歯髄

西田 大輔

論文サマリー

 破骨細胞は、単球・マクロファージ系の前駆細胞が分化した多核の骨吸収細胞である。破骨細胞の形成は、破骨細胞分化因子である、receptor activator NF-kappa B ligand(RANKL)とそのデコイ受容体である、osteoprotegerin(OPG)の相対比によって厳密に調節されている。破骨細胞による骨吸収は継続的に行われ、骨芽細胞による骨形成と相まって、骨量の維持に寄与している。

 一方、歯を構成する硬組織(エナメル質・象牙質・セメント質)を吸収する細胞は、破歯細胞と呼ばれる。歯は骨とは異なり、正常時では、一度形成されると吸収されることはないが、外傷などの炎症性環境では破歯細胞が誘導され、歯質の吸収が起こる。この時、歯の内側に存在する歯髄側の象牙質から起こる吸収を内部吸収という。正常な歯髄に破歯細胞は存在しないが、内部吸収において破歯細胞形成が誘導されるメカニズムはよくわかっていない。

 破歯細胞の特性と調節因子は、破骨細胞と同様であると考えられているが、歯髄の微小環境におけるRANKL/OPGの相対比が、破歯細胞分化の重要な調節因子であるかについては定かではない。そこで本研究は、OPG欠損(KO)マウスを用いて、歯髄組織の破歯細胞調節におけるOPGの役割を明らかにすることを目的とした。

 マウス歯髄における破骨細胞調節因子の発現を確認したところ、正常時の歯髄組織では、RANKLおよびOPGが検出され、OPGの発現は骨と比較して有意に高値を示した。このことから、歯髄では、OPGが破歯細胞形成を負に調節することが予想された。しかしながら、破歯細胞は、野生型と同様にOPG-KOマウスの歯髄組織においても認められなかった。そこで、外傷性損傷によって誘導される破歯細胞の形成におけるOPGの関与を検討した。外傷は、野生型、OPG-KOマウス共に歯髄組織に破歯細胞を誘導したが、その数はOPG-KOマウスで顕著に増加した。この時、RANKLの発現は、損傷を受けていないコントロールよりも有意に高く、OPGは低下傾向を示した。その結果、歯髄のRANKL/OPGの相対比は有意に増加した。また、歯髄は炎症性環境において、低酸素状態となることが知られている。そこで、低酸素で誘導されるhypoxia inducible factor(HIF)の発現を確認したところ、HIF-1α、HIF-2αの発現が外傷を加えた歯髄で上昇した。HIF-1αとHIF-2αはRANKLを上昇、またはOPGを低下させることが報告されている。このことから、外傷誘導性の破歯細胞形成はHIFを介する可能性が示唆された。

 以上の結果から、歯髄におけるOPGは、正常時には破歯細胞の形成抑制に関与しないが、外傷によって誘導される破歯細胞の形成を抑制することが明らかになった。

西田 大輔
図 歯の内部における破歯細胞の分化調節メカニズム
(1)歯髄ではRANKLとOPGが発現するが、豊富なOPGにより破歯細胞分化は負に制御された環境である。
(2)しかし、OPGが欠損した環境下でも、正常な歯髄組織には破歯細胞は存在しない。
(3)外傷は歯髄環境のRANKL/OPGの相対比率を上昇させ、破歯細胞分化を誘導する。HIFがこの過程を媒介する。
(4)歯髄のOPGは、外傷誘導性の破歯細胞の分化を負に制御する。

著者コメント

 歯の内部吸収における破歯細胞の形成メカニズムは長年よくわかっていませんでしたが、今回、病因の一端を示すことができたと考えています。私は、松本歯科大学大学院を卒業後、博士研究員として東京歯科大学へ着任しました。この論文は、大学院時代から続けていた研究であり、報告できたことを大変嬉しく思います。研究を始めた当初は不安が大きく、サイエンスの楽しさがわかったのは、大学院時代の後半になってからでした。研究の途中で何度か挫折しかけ、大変ご迷惑をお掛けしましたが、長きに渡りご指導いただいた溝口利英先生、宇田川信之先生、研究を支えてくださった共著者の皆様に深く感謝申し上げます。今後少しでもサイエンスの発展に貢献できるよう、微力ながら尽力していく所存です。(東京歯科大学 口腔科学研究センター・西田 大輔)