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赤芽球由来のFGF23が造血前駆細胞の動員を促進する

FGF23 from erythroblasts promotes hematopoietic progenitor mobilization.
著者:Shinichi Ishii, Tomohide Suzuki, Kanako Wakahashi, Noboru Asada, Yuko Kawano, Hiroki Kawano, Akiko Sada, Kentaro Minagawa, Yukio Nakamura, Seiya Mizuno, Satoru Takahashi, Toshimitsu Matsui, Yoshio Katayama
雑誌:Blood. 2020 Dec 23:blood.2020007172.
  • FGF23
  • CXCR4
  • erythroblast

石井 慎一

論文サマリー

 造血幹前駆細胞を骨髄に留める経路の一つがCAR細胞に発現するケモカインCXCL12と造血幹前駆細胞上唯一のケモカイン受容体CXCR4です。このCXCL12-CXCR4軸を切ることが、造血幹前駆細胞の骨髄から末梢血への動員のきっかけになります。この分子メカニズムを調べる過程でFGF23に着目しました。

 動員を誘発するG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)をマウスに投与わずか1時間で、骨組織だけでなく骨髄細胞でもFGF23 mRNAの発現が上昇します。マウスではG-CSFを12時間おきに8回投与して動員実験を行いますが、骨髄内FGF23濃度は動員と歩調を合わせてG-CSFの投与回数ごとに上昇します。骨髄細胞間隙がかなり小さいことを考慮すると骨髄内FGF23濃度は計算上末梢血の約20,000倍にまで上昇しますが、末梢血FGF23濃度はG-CSFによって変化せず、リン濃度も一定でした。

 G-CSF投与やそれによって惹起されることが分かっている交感神経刺激後2時間以内で、骨髄細胞の中でも特に赤芽球でFGF23 mRNAの発現が著明に上昇しており、それは赤芽球から抽出した蛋白レベルでも確認できました。赤芽球が低酸素刺激を受けて脱核することから、ヒト赤芽球細胞株HUDEP-2を酸素濃度5%で4時間培養してみると、培養上清でFGF23蛋白濃度が上昇していました。G-CSF投与後早期の骨髄組織低酸素誘導も確認し、赤芽球からのFGF23産生刺激は骨髄内低酸素環境と考えられました。

 動員とFGF23の関係を調べるため、FGF23全身性欠損マウスを作成すると、動員が著しく低下していました。さらに血液細胞由来FGF23が動員に必要であることを示すために、骨髄移植によって血液細胞だけでFGF23が産生できないキメラマウスを作成すると、やはり動員が低下していました。このキメラマウス ではG-CSF投与後の骨髄内FGF23濃度上昇も十分ではなく、血液細胞由来FGF23が動員に必要であるということがわかりました。次にDMP1-creを用いて骨細胞特異的FGF23欠損マウスを作成すると、動員は低下せずむしろ上昇していました。すなわち骨細胞由来FGF23は動員には必要ではないと考えられました。

 FGF23と動員の関係の分子メカニズムを調べるために、transwell migration assayを行いました。5μmの穴のあいたメンブレンで仕切られた上下層を用意し、上層に単核球分離した骨髄細胞を、下層にはCXCL12を入れました。4時間培養すると上層の造血幹前駆細胞が下層のCXCL12に引き寄せられます。上層にFGF23とαKlothoを入れておくと、この移動が大きく低下することがわかりました。FGF23はCXCL12-CXCR4軸を阻害するのです。CXCL12とCXCR4の結合そのものにはFGF23が関与しないことも確認しました。FGF受容体のマルチインヒビターで単核球分離した骨髄細胞を予め培養しておくとFGF23による阻害効果はキャンセルされることから、FGF23が造血幹前駆細胞上のFGF受容体に結合することによって、CXCR4の機能をおそらく細胞内シグナルレベルで抑制して動員が起こることがわかりました。

 骨髄という未知の閉鎖空間において、超生理活性レベルにまで高騰してはじめて新しい作用を発揮する分子があること、それが末梢血ではホルモンとしてよく知られた分子であることから、大きな驚きをもたらす結果となりました。

石井 慎一

著者コメント

 私を血液内科医の道に導いてくださった先生と、神戸大学血液内科で粘り強く研究指導をしてくださった先生のおかげで、ようやくひとつのストーリーが完結しました。「骨の中に骨髄はあるのだから、骨と血球には関係があるはずだ。」を出発点とし、臨床と基礎をつなぐ発想で研究を続けてきました。紆余曲折はあり何度も挫折しましたが、たくさんの偶然とたくさんの先生方のご協力に支えられ、論文投稿前1年間にあれよあれよとストーリーが急展開していく様には大変感動しました。この論文に関わってくださった方々に心から感謝申し上げます。(神戸大学大学院医学研究科血液内科学分野・石井 慎一)