日本骨代謝学会

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骨細胞特異的PTEN欠損マウスでは、血清FGF23濃度が低下し、血清リン濃度が増加する

Lack of PTEN in osteocytes increases circulating phosphate concentrations by decreasing intact fibroblast growth factor 23 levels
著者:Kawai M, Kinoshita S, Ozono K, Michigami T.
雑誌:Sci Rep 2020 Dec 9;10(1):21501.
  • FGF23
  • PTEN
  • osteocyte

川井 正信

論文サマリー

 Fibroblast growth factor 23 (FGF23)は骨細胞から産生・分泌される内分泌因子で、リン代謝恒常性維持において重要な役割を果たしていますが、骨細胞におけるFGF23の制御機構には不明な点が多いです。血清FGF23濃度とBody mass index (BMI)の間には負の相関があることやin vitroの研究において、インスリン/AKTシグナルの活性化によりFGF23の発現が抑制されることが報告されていることから、インスリン/AKTシグナルとFGF23発現制御機構の間には関連性があることが示唆されます。しかし、その詳細な制御機構は不明でした。そこで我々は、AKTシグナルに対して抑制的に作用するPTEN (phosphatase and tensin homolog deleted from chromosome 10)に注目し、骨細胞特異的にPTENを欠損するマウスを解析することで、骨細胞におけるPTEN/AKTシグナルによるFGF23発現制御機構を明らかにすることを目的として検討を行いました。骨細胞特異的PTEN欠損マウスはDmp1-CreマウスとPTEN-flox/floxマウスを交配させて作出しました。大腿骨でのFGF23タンパクの発現は、免疫染色(図)でも大腿骨抽出物を用いたELISAでも、骨細胞特異的PTEN欠損マウスにおいて低下していました。この結果に一致して、血清インタクトFGF23濃度も骨細胞特異的PTEN欠損マウスで低下していました。骨細胞特異的PTEN欠損マウスでは、尿中リン排泄が低下し、血清リン濃度は上昇していました。骨細胞特異的PTEN欠損マウスでは、FGF23シグナルの低下に一致して腎臓の刷子縁分画におけるNpt2aのタンパク発現が増加していました。骨芽細胞系のUMR106細胞でPTENをノックダウンしたところ、AKT/mTORC1シグナルが活性化し、そしてFGF23のmRNA発現が低下していました。また、FGF23の発現抑制はmTORC1阻害薬であるラパマイシン存在下で部分的にレスキューされていました。同様に、インスリン刺激もFGF23のmRNA発現をUMR106細胞で低下させ、ラパマイシンの存在下では、インスリンによるFGF23発現抑制作用を認めませんでした。これらの結果は、骨細胞におけるPTEN/AKT/mTORC1シグナルがFGF23の発現制御およびリン代謝制御に関わっていることを示唆すると考えられました。

川井 正信

著者コメント

 本研究は、PTEN/AKT/mTORC1シグナルとFGF23発現制御機構との関連性を検討したものです。今後、今回発見したFGF23発現制御機構が、糖代謝疾患やリン代謝疾患と病態学的にどのように関連しているのかを検討したいと思っています。大腿骨抽出物におけるFGF23濃度の測定などいろいろと難しい部分もありましたが、Co-first authorである木下研究員や道上先生をはじめとする研究室のメンバーの協力で論文化することができました。この場を借りて感謝申し上げたいと思います。(大阪母子医療センター研究所、骨発育疾患研究部門・川井 正信)