日本骨代謝学会

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クラスIIヒストン脱アセチル化酵素(HDAC5)及び接着斑キナーゼ(FAK)シグナル系による骨細胞メカノトランスダクション調節機序

A FAK/HDAC5 signaling axis controls osteocyte mechanotransduction.
著者:Tadatoshi Sato, Shiv Verma, Christian D Castro Andrade, Maureen Omeara, Nia Campbell, Jialiang S Wang, Murat Cetinbas, Audrey Lang, Brandon J Ausk, Daniel J Brooks, Ruslan I Sadreyev, Henry M Kronenberg, David Lagares, Yuhei Uda, Paola Divieti Pajevic, Mary L Bouxsein, Ted S Gross, Marc N Wein
雑誌:Nat Commun. 2020 Jul 1;11(1):3282.
  • メカノトランスダクション
  • class II HDAC
  • FAK

佐藤 匡俊
Dr. Wein (左), 筆者(右)
32P kinase assayについてディスカッションをしている雰囲気で、Endocrine unit長のDr. Mannstadtに写真撮ってもらいました。

論文サマリー

 骨細胞は、石灰化された骨基質タンパク質中に存在しており、骨格系組織においてメカノセンサーとしての主要な働きを担っています。そして、力学的負荷により惹起される流体学的シャアストレス(FFSS) を樹状突起の突出部にて感知しています。力学的負荷により促進される骨形成は、スクレロスチン(Sost遺伝子によってコードされる) の発現が減少することによってもたらされることが知られています。しかしながら、メカノトランスダクション調節とSost発現調節機構の分子メカニズムは明らかにされていません。今回、クラスIIヒストン脱アセチル化酵素(HDAC4並びにHDAC5)が、力学的負荷によるSostの発現減少ならびに骨形成に必須であることを報告させていただきました。スクレロスチンの発現調節は副甲状腺ホルモン(PTH)によって調節されることが分かっており、クラスIIHDACのリン酸化(特にセリン残基)が重要とされてきました。しかしながら、FFSSにより惹起されたシグナルは、接着斑キナーゼ(FAK)を介してHDAC5上のY642(チロシン)のリン酸化が調節されることが重要な機能を果たしていることを確認しました。また、Y642が脱リン酸化すると、HDAC5が細胞質から核内に移行して、スクレロスチンの発現調節することも確認しました。種々のFAK インヒビターを用いたin vitro及びin vivoの実験においては、FAKインヒビターを投与することによりSostの発現が有意に減少することを確認しました。また、FAKの上流で調節しているインテグリンのインヒビターであるcilengitideを投与することにより、FAKインヒビター同様にHDAC4/5依存的にSostの発現を調節することを確認しました。これらのデータは、骨細胞系において、クラスII HDAC―FAK系による調節機構は力学的負荷によるシグナル伝達に重要であることを示唆しており、今後の創薬ターゲットとしての有用性を示唆しています。

佐藤 匡俊
(a, b) リコンビナントHDAC5を活性型FAK によりリン酸化させたサンプルを、質量解析法を用いてリン酸化部位の同定を行いました。リコンビナントHDAC5のみ (a) 及びリコンビナントHDAC5+活性型FAK (b) を試験管内で反応させました。その結果、HDAC5上のチロシン642残基がFAK依存的にリン酸化されることが分かりました。

佐藤 匡俊
(c) FLAGタグした野生型HDAC5及びY642F変異型(チロシン→フェニルアラニン変換。恒常的脱リン酸化することを意図して作成)HDAC5を293T細胞にトランスフェクションし免疫沈降法及びFLAG抽出を行い、その後、活性型FAKを使用して、試験管内でリン酸化反応を行いました。それらのサンプルは、ウェスタンブロットにY642リン酸化のシグナル強度を確認しました。その際、Y642リン酸化部位を特異的に認識する抗体を新たに作成して実験に用いました。野生型HDAC5はFAKによりリン酸化されますが、変異型Y642F HDAC5では、リン酸化されないことを確認しました。 (d) コントロール細胞(Ocy454, 骨細胞細胞株)及びFAK-KO細胞を用いて、FFSS(流体学的シャアストレス)及びFAK遺伝子欠損による反応性を試験しました。短時間(10分間)FFSS刺激によりコントロール群においてはY642 HDAC5のリン酸化が減少し、FAK-KO群においては、有意にpY642-HDAC5が減少することを確認しました。

佐藤 匡俊
(e) 平常時は、恒常的な骨基質タンパク質群とインテグリンの相互作用を介して根本的なFAK活性化を惹起しています。活性型FAKは直接的にクラスIIa HDACのチロシン残基をリン酸化して、細胞質へ局在するように調節しています。その結果として、クラスIIa HDACによる抑制を受けずにSost遺伝子の発現が維持されています。FFSSによる刺激は、骨基質タンパク質群とインテグリンをかい離させ、FAKの活性を減少させクラスIIa HDACの細胞核への移行を誘導してSostの発現を抑制します。また、RGDペプチド及びFAK阻害剤を投与することは、FFSSによるポジティブな影響と同等の効果を得られることを示しています。

著者コメント

 今回の発見は、FAKがクラスIIヒストン脱アセチル化酵素を修飾することを証明した初めての報告であり、骨以外の力学的刺激を感知する臓器・組織においても似たよう調節機構が存在する可能性を示唆しています。骨細胞において力学的負荷によりFAKのリン酸化が減少する現象は、今までのメカノセンシングに関する報告と真っ向から対立するユニークな現象であり、FAKを専門的に研究している共著者にもなかなか理解されず、同じような実験を色々な方面から試すことになりましたが、結果としてはそれが良い方向に進んだと思っています。(Medicine, Harvard Medical School / Biology, Massachusetts General Hospital, Endocrine unit・佐藤 匡俊)