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podoplanin陽性骨芽細胞の骨細胞分化に関する組織学的検索

Immunocytochemical assessment of cell differentiation of podoplanin-positive osteoblasts into osteocytes in murine bone.
著者:Nagai T, Hasegawa T, Yimin, Yamamoto T, Hongo H, Abe M, Yoshida T, Yokoyama A, Freitas PHL, Li M, Yokoyama A, Amizuka N.
雑誌:Histochem Cell Biol. 2020 Nov 11. doi: 10.1007/s00418-020-01937-y
  • 骨細胞
  • podoplanin
  • ERM family

永井 伯弥

論文サマリー

 骨芽細胞から分化した骨細胞は、成熟した骨基質内部で幾何学的に規則正しい配列を示す。骨細胞が規則的に配列するためには、骨芽細胞から骨細胞への分化が時空的な制御を受けていると推測されるがその詳細は明らかとされていない。podoplaninやCD44は、ERM family蛋白と結合することでアクチン線維などの細胞骨格を再構築し、細胞突起の形成、細胞極性の獲得に関与すること、また、互いに結合部位を持ち共役的に関わる可能性が示唆されている。本研究では、骨細胞に分化しつつある骨芽細胞や分化初期の骨細胞におけるpodoplaninやアクチン線維の細胞内局在、また、CD44陽性細胞との局在性を組織化学的に検索した。

 生後8週齢ICRマウス大腿骨骨幹端部骨梁では、骨基質に埋め込まれつつある骨細胞(または骨芽細胞)の一部が細胞膜上および細胞突起にpodoplanin陽性反応を示しており、これらpodoplanin陽性骨芽細胞のアクチン線維の走行は、骨細胞の走行に近似していた。このことから、podoplanin陽性細胞では細胞骨格の改変が推測された。骨モデリング部位である皮質骨骨髄側では、podoplanin陽性骨芽細胞が骨表面に一定間隔で局在し、これらpodoplanin陽性骨芽細胞の細胞膜周囲にリン酸化ezrinが発現していたが、CD44陽性細胞との細胞間接触像は認められなかった。よって、皮質骨骨髄側では、骨細胞分化におけるpodoplaninシグナルはCD44によって増強されないと推測された。一方、骨リモデリング部位である骨幹端骨梁ではTRAP陽性/CD44陽性破骨細胞が、podoplanin陽性骨芽細胞にしばしば接触または近接していた。また、これらのpodoplanin陽性骨芽細胞の中にはCD44陽性、かつ、リン酸化ezrin陽性を示すものが認められた。一方、CD44陽性/TRAP陽性破骨細胞はリン酸化ezrin陽性反応を示さなかった。このことから、podoplanin陽性骨芽細胞が、CD44陽性破骨細胞と接触することで、骨細胞分化におけるpodoplaninシグナルが増強される可能性が推察された。また、マウス頭蓋冠の器官培養の結果、CD44非添加群に比較して、CD44添加群でリン酸化ezrin蛋白の発現が上昇したことから、CD44がezrinリン酸化を促進すると推測された。 以上のことから、骨基質に埋め込まれつつある骨芽細胞、あるいは、埋め込まれたばかりの骨細胞はpodoplaninを細胞膜上に発現し、ERMファミリー蛋白のリン酸化を介して細胞内アクチンフィラメントの局在を再構築する可能性が推察された。また、骨リモデリング部位ではCD44陽性破骨細胞が骨細胞分化におけるpodoplanin作用を増強する可能性、一方で、モデリング部位の骨細胞分化においては、CD44-podoplanin以外の機序が推測された。(北海道大学大学院歯学研究院・硬組織発生生物学教室・長谷川智香、永井 伯弥)

永井 伯弥
骨基質に埋め込まれつつある骨芽細胞(b)は、アクチン線維の走行が変化するとともに、podoplanin陽性を示す(d, f)。

著者コメント

 骨基質の中で規則正しく、美しく配列する骨細胞。それらが骨芽細胞から分化し骨に埋め込まれる際、何らかの環境が影響していると考えられ、その「何らか」を明らかにするのが私のmissionでした。未だ謎が多い骨細胞分化の分野でこのような発見を報告できたことを嬉しく思います。私の恩師である網塚教授のそのまた恩師である小澤名誉教授の「美は真なり、真は美なり」という言葉を胸に、細部の細部まで美しさに、真実にこだわる精神を抱き続けることが出来た賜物であります。本研究をきっかけに真実が明らかになっていくことを祈っております。末筆ではありますが、本研究を行うにあたり、辛抱強く支えてくださった 網塚教授、横山教授、長谷川先生をはじめ、支えてくださったすべての方々にこの場を借りて御礼申し上げます。(北海道大学大学院歯学研究院 口腔機能補綴学教室・永井 伯弥)