日本骨代謝学会

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OPG産生は、それが起こった場所で重要

OPG production matters where it happened
著者:Masayuki Tsukasaki, Tatsuo Asano, Ryunosuke Muro, Nam Cong-Nhat Huynh, Noriko Komatsu, Kazuo Okamoto, Kenta Nakano, Tadashi Okamura, Takeshi Nitta and Hiroshi Takayanagi
雑誌:Cell Rep 32: 108124 (2020)
  • OPG
  • RANKL
  • 骨免疫

塚崎 雅之
著者(前列右)、ボスである高柳 広 教授(前列左)と、本論文に多大な貢献をして下さったラボメンバーの皆さま。せっかくの機会なので一言ずつご紹介させて頂きます。(後列右)腸管とリンパ節の解析を担当して下さった、浅野 達雄 先生。腎臓小児科医のはずが、豊富な人生経験により骨にも腸管にもリンパ節にも精通された逸材。(後列左)マウス作製に関しご指導いただき、胸腺解析も担当くださった新田 剛 先生。胸腺研究の第一人者でありながら、日々の筋トレを怠らずボディービルダー並みの肉体を有する超人。(後列中央)胸腺の解析を担当くださった室 龍之介 先生。胸腺とT細胞シグナルの専門家であり、実験スキルの高さと面倒見の良さからラボの若手に最も頼られる存在だが、普通に街を歩いているだけで職務質問されてしまう奇才。

論文サマリー

 Osteoprotegerin(OPG)はRANKLのデコイ受容体であり、RANKLシグナルを負に制御することで骨および免疫システムの恒常性維持に必須の役割を担う。RANKLは破骨細胞、胸腺髄質上皮細胞、腸管M(microfold)細胞の分化を誘導するサイトカインであり、OPGを全身で欠損したマウスではこれらの細胞の数が過剰に増加し、骨代謝系および免疫系に顕著な異常を認める。

 これまで、RANKL及び受容体RANKのコンディショナルノックアウトマウスを用いた研究によって、生体内におけるRANKLの産生細胞と標的細胞が明らかにされてきた。しかしながらOPGのfloxマウスは存在せず、生体内におけるOPGの産生源は未知であった。また、血中OPG濃度と骨疾患や炎症性腸疾患との相関が報告されており、循環しているOPGが骨および免疫系の制御に寄与する可能性が示唆されていたが、単一臓器由来のOPGが全身を循環し、骨、胸腺、腸管においてRANKLの機能を調節しているのか、あるいはそれぞれの臓器で局所的に産生されるOPGがRANKLの制御に重要なのかは不明であった。

 本研究で我々は、CRISPR/Cas9システムを用いてOPGのfloxマウスを作出し、骨、胸腺、腸管におけるOPGの産生源を探索した。シングルセルRNA-seq解析およびOPGコンディショナルノックアウトマウスの表現型解析の結果から、骨においては骨芽細胞、胸腺においては胸腺髄質上皮細胞、腸管においてはM細胞がOPGの主要な産生源であることが明らかとなった。興味深いことに、骨芽細胞(Sp7-Cre)、胸腺上皮細胞(Foxn1-Cre)、腸管上皮細胞(Villin-Cre)で特異的にOPGを欠損したマウスでは、それぞれ骨、胸腺、腸管において顕著な表現型が観察された一方で、いずれのマウスにおいても血中OPG濃度は正常に保たれていた。すなわち、循環OPGは骨および免疫組織の恒常性に寄与しないと考えられ、血中OPG濃度と骨疾患および免疫疾患には相関があっても因果関係はない可能性が示唆された。以上より、骨及び免疫システムの制御における、OPG局所産生の重要性が明らかとなった(図1)。

塚崎 雅之
図1:OPG産生は、それが起こった場所で重要
骨、胸腺、腸管粘膜におけるOPGの産生源はそれぞれ骨芽細胞、胸腺髄質上皮細胞、M細胞であり、いずれの臓器においても血中OPGではなく局所産生されたOPGが重要な役割を担う。

 我々の報告と同時に、Charles A. O’BrienらのグループもOPG-floxマウスを作出し、B細胞(CD19-Cre)および骨細胞(Sost-Cre)特異的なOPG欠損マウスでは骨量に変化が認められないことを報告した。また、Dmp1-Creを用いて骨芽細胞と骨細胞でOPGを欠損したマウスでは、OPGのグローバルノックアウトマウスと同等の骨量減少を示す一方で、血中OPG濃度は正常に保たれることを示し、骨芽細胞が局所的に産生するOPGが骨恒常性に必須の役割を持つことを報告した(Cawley et al., Cell Rep 2020)。

 今回の一連の研究成果は、多彩かつ強力な活性を有するRANKLの機能が、OPG産生細胞により局所的に厳密に制御されていることを示し、脊椎動物の恒常性におけるRANKL/RANK/OPGシステムの局所的な制御機構の重要性を浮き彫りにした。

塚崎 雅之
図2:却下された表紙案
本論文のタイトル「OPG production matters where it happened」は、我々が論文を執筆していた2020年6月頃に、アメリカで話題になっていたトランプ政権の暴露本「The room where it happened」と、「#Black lives matter」 運動、そしてこの論文の内容が偶然にも高柳教授の中で繋がり、生み出されたタイトルである。そこで著者も「The room where it happened」の表紙を模したカバー案を作成しCell pressに提出したが、production editorからあえなく却下された。私は政治に関しては全くの素人なのでトランプ政権に対するコメントは控えたいが、人種差別のない世界の実現は願っています。

著者コメント

 RANKL/RANK/OPGシステムは骨代謝制御の中枢機構ですが、OPGだけfloxマウスが存在せず、その産生源が生体レベルで証明されていなかったため、自分でOPG-floxマウスを作って調べてみようという単純な発想で始めたプロジェクトでした。まさかO’Brienらのグループがまた(RANKL-floxマウス, 可溶型RANKL欠損マウスに続いて3度目)同じマウスを作って解析しているとは思わず、彼らの学会発表を見つけたときは目の前が真っ暗になりました。なんとか無事にback-to-backで論文を発表することができたのは、高柳教授をはじめとした共著者の先生方のご指導、ご協力のお陰です。本論文は骨だけでなく胸腺、腸管といった免疫組織のデータを含んでおり、「RANKL機能の局所制御の重要性」に関して一般性の高い知見を提供できたのではと考えています。冒頭写真のfigure legendでご紹介したように、高柳研は専門性やバックグラウンドの異なるユニークなメンバーが切磋琢磨しながら研究に打ち込んでいる稀有な環境です。本論文はラボ内の研究グループの垣根を超えた共同研究の成果であり、私一人の力では決して完成させることが出来ませんでした。諸先生方にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。(東京大学大学院医学系研究科 免疫学・塚崎 雅之)